ジョングクさんが「MAKE TOKYO GREAT AGAIN」の帽子をかぶっていたこと(ご本人はすでに謝罪をし、帽子を破棄されています)が問題視された後、ナムさんが2023年にかぶっていた帽子にも注目が集まり、議論が続いています(2025年6月22日現在)。
ナムさんの帽子は、「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」(「MAGA」といわれる)のパロディグッズです。
「MAGA」パロディは多く存在しますが、それぞれの成り立ちや意味合いを知ることは、より良い議論に繋がるため、ここで解説していこうと思います。
ナムさんが被っていた帽子のフレーズは「MAKE COMEDY GREAT AGAIN」
ナムさんがかぶっていた帽子のフレーズは「MAKE COMEDY GREAT AGAIN」です。
こちらは、2023年12月5日にUPされた、ナムさんのセルカです。
鏡で逆になっていること、ぼやけていることで、少し見づらいかもしれませんが、かぶっている帽子の文字は「MAKE COMEDY GREAT AGAIN」というフレーズです。
(出典:ナムさんInstagram 2023.12.5)
このグッズは、韓国の「Meta Comedy Club」のマーチャンダイズ商品です。
「Meta Comedy Club」とは、メタコメディに所属するお笑い芸人やクリエイターたちのコンテンツが観られるYouTubeチャンネル。
「MAKE COMEDY GREAT AGAIN」の元ネタは、Meta Comedy ClubのEP.12、こちらのオープニングの演出です。
こちらの冒頭に出てきます。
このオープニングの演出は、1番はじめに「There was an aidia. the bring together good of funniest people(面白い人達を一同に集める、そんなアイデアがあった)」、そして その後に「MAKE」「COMEDY」「GREAT」「AGAIN」の文字が画面に出てくる、というものでした。
その後に、番組本編へと入っていきます。
ちなみに、Meta Comedy Clubは、日本の吉本ともコラボしたことがあります。
「MAKE COMEDY GREAT AGAIN」帽子は、どこで売っている(買える)か
この帽子は、韓国のカスタムグッズ製作専門「marpple」のプラットフォーム、「Meta Comedy Official」で購入できます。
「MCGA」ハット (出典:Meta Comedy Official )
「MCGA」ハット (出典:Meta Comedy Official 日本語ページ)
そもそも「MAGA」とは何か?
ナムさんが2023年にUPした写真の中でかぶっていたのは、「MAKE COMEDY GREAT AGAIN」、これは「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」のパロディです。
それでは「元ネタ」である「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」、通称「MAGA」とは何でしょうか。
「MAGA」の由来
「MAGA」とは、「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」の略称、ドナルド・トランプ氏が度々スローガンに掲げることで 有名なフレーズです。
実は、このスローガンは元々、1980年アメリカ合衆国大統領選挙の際に ロナルド・レーガン(アメリカの第40代大統領)が使用したスローガンです。
レーガンのスローガンは、正確には「LET’S MAKE AMERICA GREAT AGAIN」。
失業率が高かった当時のアメリカで、国民に希望を与えようと、使われたフレーズです。
しかし、2016年、ドナルド・トランプが 大統領選の際に使い始め、それ以来 このフレーズは「トランプ色」に染まってしまうことになるわけです。
彼は「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」をアメリカで商標登録し、使い始めました。
USPTO(米国特許庁)の商標データベースに、有名なロゴ入りの帽子、そしてプラカード、ステッカーなどの選挙グッズにとどまらず、Tシャツ(ベビー服まで!)まで登録されています。
(参考:USPTO(United States Patent and Trademark Office/米国特許商標庁))
トランプは、全く同じ文章を、しかしレーガンとは全く異なる「アメリカ第一主義」の文脈でこれを掲げ、このフレーズには 彼の排外主義政策のイメージが染み付いてしまうこととなったのです。
メディア「RealClearPolitics」は 2015年、レーガンとトランプとでは、政治への信条が全く違うと、痛烈に指摘しています。
(参考:RealClearPolitics 2015.8.23「Trump Is No Reagan(トランプはレーガンではない」 )
「MAGA」のパロディって何?
「MAGA」パロディの由来
「MAGA」のパロディには、「MAGA」とはまた、違う意味合いがあります。
その成り立ちは、トランプの人権侵害に「NO!」を突きつけ、ひっくり返す という文脈で生まれているのがほとんどです。
「MAKE AMERICA GAY AGAIN」
その「MAGA」パロディのひとつ、「MAKE AMERICA GAY AGAIN」の帽子は、2015年、ヒューマン・ライツ・キャンペーン(Human Rights Campaign、通称HRC)によって販売されました。

ヒューマン・ライツ・キャンペーン(Human Rights Campaign、通称HRC)は、アメリカの人権団体です。
同性婚実現や、ヘイトクライム防止法の可決に、大きく貢献しています。
その後も、プライド月間に合わせて、「MAKE AMERICA GAY AGAIN」Tシャツがリリースされています。
このTシャツは、ヒューマン・ライツ・キャンペーンと、シンガーソングライターのJack Antonoff(ジャック・アントノフ)、ファッションデザイナーで妹のRachel Antonoff(レイチェル・アントノフ)が共同設立したアライ・コアリションとのパートナーシップによって、制作されました。
(参考:HUFFPOST 2016.6.7 )
Political Pride Collections – The 'Make America Gay Again' T-Shirts Celebrate Pride Month… https://t.co/7k2tUx83ii pic.twitter.com/IUWCPh9NPM
— Max Starr (@Maximum_Media1) June 16, 2016
このTシャツの売上金は、平等法(雇用、住宅、教育等において、性的指向や性自認に基づく差別から保護する米国連邦法)の支援に充てられています。
ヒューマン・ライツ・キャンペーンのウェブサイトから購入すると 売上の100%が、アパレル店舗からの売上金からは30%が、平等法へのサポートとなりました。
(参考:FASHION UNITED 2016.6.10 )
「MAKE AMERICA GAY AGAIN」セレブたちが身に付け、話題に
俳優の Ashton Kutcher(アシュトン・カッチャー)、俳優でシンガーソングライターの Miley Cyrus(マイリー・サイラス)、テレビ司会者・プロデューサーであるNev Schulman(ネブ・シュルマン)等が、「MAKE AMERICA GAY AGAIN(アメリカを再びゲイに)」のロゴ入りの帽子やTシャツを身に付け、賛同しています。
Miley Cyrus' "Make America Gay Again" selfie bas reached one million likes on Instagram! 🌈 pic.twitter.com/KUPAXDld0N
— Pop Crave (@PopCrave) October 9, 2016
2025年トランプ大統領が多様性政策の撤回を行う
トランプ氏の第1次政権(2017年~2021年)においても、多様性やLGBTQコミュニティに対する排除的な政策が実施されていました。
「MAKE AMERICA GAY AGAIN」HATが生まれた2015年から10年経った2025年1月、再び大統領に就任したトランプ氏は、バイデン前政権下の多様性政策を撤回します。
性別については「性別は男性と女性の二つだけであり、変更できない」とする大統領令に署名するなど、トランプ第1次政権よりもさらに明確に、多様性を排除する姿勢が示されています。
ヒューマン・ライツ・キャンペーンのケリー・ロビンソン代表は「私たちは引き下がったり、脅かされたりすることを拒否します。私たちはどこにも行かず、これらの有害な条項に対して、私たちが持っているすべてのものを使って反撃します」と述べています。
セレブたちが「MAGA」パロディグッズを身につけるワケ



Ashton Kutcherさんなど、セレブたちが「MAKE AMERICA GAY AGAIN」ハットや Tシャツを身に付けたのには、社会に向けて、ポジティブなメッセージを伝えるという、大きな意味がありました。
トランプ大統領の「MAGA」帽子のパロディ化は、トランプ政権だけではなく、その「排外主義」に対して「NO!」というメッセージが込められています。
同時に、LGBTQ+コミュニティへの支持を表明し、多様性の価値観を反映するものでもあります。
セレブリティがこのメッセージ─価値観を「身に付ける」ことで、多くの人がこの問題について考える機会となります。
結果的に、より良い社会を目指す議論の契機になっています。
「単なるファッション」ではありません。
トランプ政権への風刺から生まれた「Make Donald Drumpf Again」
2016年当時、トランプ政権の風刺として「Make Donald Drumpf Again」というミームも生まれました。
この「Make Donald Drumpf Again」は、アメリカのニュース風刺トークショー番組「Last Week Tonight with John Oliver」から生まれたミームです。
司会の John Oliver(ジョン・オリバー)さんは、2016年2月28日放送の番組内で、トランプ氏の選挙運動のレトリックや政治的立場について解説、批判しています。
トランプ氏は、かねてより実業家としても知れ渡っており、当時 番組内で行われたインタビュー内でも、人々は「トランプ」氏のイメージが「お金持ち」「成功」と答えています。
番組では、「Trump(トランプ)」という名前自体が 彼のブランドの礎になっていることを指摘し、「その魔法の言葉(Trump)と、彼の本当の姿を切り離す方法」として、トランプ氏の先祖代々の名前である「Drumpf」に戻そう、と皮肉とユーモアたっぷりに、「MAGA」をもじってみせました。
これが「Make Donald Drumpf Again」です。
(ジョン・オリバーさん)「彼の祖先の名前を持ち出すことは奇妙に思えるかもしれませんが、ドナルド・トランプの言葉を引用すると、彼は自分の伝統を誇りに思うべきです。」
(ジョン・オリバーさん)「もしあなたが、“アメリカを再び偉大に”するというカリスマ的な人物、“Donald Trump(ドナルド・トランプ)”に投票しようと考えているなら、ちょっと立ち止まって、“Donald Drumpf(ドナルド・ドラムフ)”という人物に会ったらどう感じるか想像してみてください。
(ジョン・オリバーさん)「彼は一連のビジネス・ベンチャーで失敗し、(中略)訴訟好きな常習的噓つきです。
彼は良い大統領になると思いますか?
だからこそ今夜、
私はアメリカに“Donald Drumpf(ドナルド・ドラムフ)”を再び作ってくれ、と お願いしているのです(I’m asking America to make Donald Drumpf Again)。」
トランプ氏の言う「自分の伝統に誇りを持つべき」という言葉は、彼の排外的な政策 ─ “アメリカ・ファースト”の考えと結びついており、外国人を排除する文脈で語られることが多いです。
大きな反響があったと同時に、「Drumpf」という姓を嘲笑している、という批判もありました。
オリバーは、トランプ氏がユダヤ系アメリカ人のコメディアン、ジョン・スチュワートを「ジョナサン・リーボウィッツ」と呼んで繰り返し嘲笑していたことを批判したうえで、「Make Donald Drumpf Again」と、「揶揄返し」の手法で皮肉るわけですが、批判は的を得ていると、筆者も思います。
オリバーも、その後、「Drumpf」の言葉は使っていません。
2025年も、政治風刺番組「Last Week Tonight with John Oliver」は、トランプにもの申す!
あれから9年、またも 2025年1月に第2次トランプ政権が発足してしまうわけですが、現在も このトークショー「Last Week Tonight with John Oliver」は健在です!
第2次トランプ政権の問題(第1次政権よりも深刻)を取り上げ、バッサリと切り込んでくれていました。
アメリカには、こういった政治やニュースの問題に切り込む風刺番組が、数多くあります。



(日本の地上波放送では 残念ながら、そういった風刺番組はお見受けしませんが…)YouTubeチャンネルでは「せやろがいおじさん」などがありますね。
「Make America Go Away」
トランプ氏が、幾度も グリーンランドを「アメリカが所有すべきだ」と(無茶苦茶な)主張してきたのに対し、生まれたのが「Make America Go Away」です。
グリーンランドに住む Aannguaq Reimer-Johansen(アーンガク・レイマー=ヨハンセン)さんは 2025年3月23日、「Make America Go Away」ハットの写真をFacebookに投稿します。
これは、アメリカのヴァンス副大統領夫妻がグリーンランドに訪問する数日前でした。
レイマー=ヨハンセンさんは、ヴァンス氏の訪問にあたり
「もし私が彼らと笑顔でセルフィーを撮れば、私たちはアメリカを愛し、アメリカの一員になりたいというメッセージを世界中に送ることになります。」
と注意喚起。
「私たちはすでに大規模なデモを通じて、私たちの姿勢を示しました。
しっかりと立ち上がり、共に立ち向かっていきましょう。」
と呼びかけました。
また、「Make America Go Away」カナダバージョンの商品も、生まれています。



2024年、カナダのジャスティン・トルドー首相との会談の中で、トランプ氏が「カナダが 高い関税で経済が疲弊しないために、アメリカの51番目の州になるべき」と発言したことがあります。
カナダバージョンは、ハットはもちろん、マグカップやTシャツにも派生しています。
MAGA make America go away Canada Mug – Elbows Up Canada https://t.co/YTdY7kgeOj
— CustomTeaShirt (@CustomTeaShirt) May 20, 2025
「MAGA」パロディの商標登録について
前項で、トランプ氏が「MAGA」を商標登録したことに触れましたが、文章の一部を変えたものである「パロディ」も、実に多くの登録があります。
例えば「MAKE AMERICA GAY AGAIN」は、非営利法人「Human Rights Campaign(ヒューマン・ライツ・キャンペーン)」が商標登録しています。
会社だけではなく、個人の登録もあり、やはりアメリカの方が多いのですが、アフガニスタンや中国の方も個人登録しています。



興味のある方は、USPTO(米国特許商標庁)のページを見てみてください。
「MAKE AMERICA ○○ AGAIN」や「MAKE ○○ GREAT AGAIN」で ページ内を検索してみると、色々出てきて、面白いです。
しかし「MAGA」の文脈でのパロディも出現してしまう
前項で見てきましたように、「MAGA」パロディの成り立ちは トランプ氏の排外政策に「NO!」を突き付けるものであり、「人権」をうったえるものが多かったですよね。
しかしながら、「トランプ氏」の「MAGA」と同じ文脈で ──つまり「排外主義」の文脈で、日本や韓国の極右政治家等が使用したことから、「MAGAパロディ」は、必ずしも「トランプ氏の政策や 排外主義を否定するもの」という意味付けだけではなくなってしまいました。
小池百合子氏の「MAKE TOKYO GREAT AGAIN」タスキ
これが、ジョングクさんの身に付けていた帽子でも問題になった「MAKE TOKYO GREAT AGAIN」というフレーズです。
これは、小池百合子氏が実際にスローガンとして利用していたものです。
小池百合子がMAKE TOKYO GREAT AGAIN というタスキをしているのを見た時に想像した、とても嫌な展開がこの形に!写真は田中龍作さんより。 pic.twitter.com/BmEgwYbMXB
— Rolling Bean (@rolling_bean) September 27, 2017
彼女は、トランプ氏の文言を多く使用しており、「都民ファースト」も、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」をもじったものです。
ユン・ソニョル前大統領の「MAKE KOREA GREAT AGAIN」ハット
2024年12月に非常戒厳を行い、罷免されたユン・ソニョル前大統領が「MAKE KOREA GREAT AGAIN」という帽子をかぶって挨拶したことでも、この「MAGAパロディ」は(悪い意味で)注目を浴びることとなりました。
この帽子は、ユン氏が 自身の支持者からもらったもので、やはりこれも「トランプ氏」の「MAGA」の文脈で使われています。帽子のビジュアルも、トランプ氏のかぶっていた帽子とそっくりの赤でした。
https://t.co/5xfUrgU21V 2025.04.11
— 💣 (@oo28723672) April 11, 2025
'다시 한국을 위대하게(MKGA)'…빨간 모자 쓴 윤석열 [TF사진관]#윤석열 전 대통령이 11일 오후 서울 용산구 대통령 관저에서 나와 지지자로부터 받은 'Make Korea Great Again'(다시 한국을 위대하게)라고 적힌 빨간 캡 모자를 쓰고 인사
서초동 아크로비스타 pic.twitter.com/F2iG9T1x5C
個々に、丁寧に経緯を見ていくのが大切


(出典:Free素材 illustAC)
以上のことを見てきますと、「MAGAパロディ」といっても、
- 「MAKE TOKYO(KOREA) GREAT AGAIN」、
- 「MAKE COMEDY GREAT AGAIN」、
- 「MAKE AMERICA GAY AGAIN」、
- 「MAKE DONALD DRUMPF AGAIN」、
などなど沢山あり、「パロディ」のフレーズに込められた意図や成り立ち、どんな文脈で使用されるのか、が それぞれ違うことが分かります。



トランプ氏がパクる以前は、そもそも レーガンさんの「LET’S MAKE AMERICA GREAT AGAIN」は「国民に希望を与えよう」という意図のフレーズでしたものね。
「トランプ氏の言葉」という「イメージ」が付いたのが残念です。



レーガン元大統領が、旧ソ連と東ドイツの両政府に、市民の移住を認めるよう呼びかけていたのに対して、
トランプ政権は、移民や難民の受け入れを厳しく制限したり、「不法」移民「対策」を強化(亡命してきた人を強制送還するという…)しています。
よく2人の行動は引き比べられ、全く対照的だと言われていますね。
一様に「MAGAパロディ」と一括りにすることはできず、それぞれ丁寧に経緯を見ていくことが大事ですね。
私たち自身が そういった習慣を身につけると、これに限らず、いつだって、より良い議論ができるのではないかと思います。
今回のことで、(過去や現在の)トランプ政治における深刻な問題について知ることが出来、良い学びの機会になった人も多かったのではないでしょうか。
筆者も、これを機に 「MAKE AMERICA GAY AGAIN」グッズを探して、身に付けようかなと思っています。
(「Lets Make America Gay Again LGBT USA Flag」というロゴのTシャツなど、他にもフレーズや商品が色々あります。)
他にも沢山ある「MAGA」パロディ。成り立ちなど、調べてみると面白いと思います。
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