音楽業界で度々起こる「盗作疑惑問題」。
先日も、ジョングクさんソロ曲『SEVEN(Feat. Latto)』が「盗作疑惑」騒動に巻き込まれましたね。もちろん、所属事務所のBIGHIT MUSICは、「事実無根」という立場を明らかにしています。
「盗作」の基準や、なぜ「盗作疑惑」騒動が起きてしまうのか、解決への帰着など、過去の色んなケースを元に、見ていきたいと思います。
メロディーが似ているだけで、「盗作」になるの?
メロディーの一部だけで「盗作」の断定は出来ません。
メロディー、ハーモニー、リズム、などなど、複数の要素を総合的に判断すべきとされています。
似ている曲があるのは、ごく自然なこと
ある作曲家さんが、メディア「Dispatch」に「キーはたった12個」と述べ、「そう言うと、似たような曲は数多くあります」と話しています。(Dispatch 2023.8.24)
(ピアノの鍵盤の12音に、それぞれメジャーとマイナーのキーが存在するので、キーは24個あるとも言えますが、〝たった24個″ということですね。)
そのように、無限の組み合わせが生まれる 音楽の創作の世界では、似たようなメロディーが偶然発生することがままあります。類似性があるから「盗作」ということにはなりません。
また、多くの人が、多くの過去の楽曲からインスピレーションを受けていますので、必然的に、同じ曲から影響を受ける人も多くいるわけですよね。
先人の作品に対して、敬意を表現するために行われるオマージュは、「盗用」とは違うものです。
著作権も考慮しつつ、こういった音楽の要素が重なる事象に対しても、理解を深めていくことは、大事だなと、改めて思います。
表現法やコード進行のパターンは、複数の表現者が採用するもの
ジョングクさんとLattoさんの『Seven』を聴いて、初めて聴くのに懐かしく、心地よく感じたかたもいらっしゃることでしょう。
『Seven』のように、各曜日を何度も繰り返して歌う表現法は、多くのアーティストが採用しています。
「『Seven』、まだこっちの曲の方が似ているわ」とSNSで話題になっていた、Jason DeruloとDavid Guettaの『Saturday/Sunday』(2023年2月リリース)、Alexander O’NealとCherrelleの楽曲『Saturday Love』でも、この表現法が使われています。
Jason Derulo & David Guetta 『Saturday/Sunday』
Alexander O’Neal & Cherrelle 『Saturday Love』
また、(例えば「懐かしい雰囲気」などの)それぞれの曲調にふさわしいコード進行の「パターン」があります。
良く使われるコード進行ですと、曲の雰囲気が似てきます。
ユ・ヒヨルさん、坂本龍一さんのケース
昨年2022年、ユ・ヒヨルさんの『とても私的な夜(아주 사적인 밤)』に、坂本龍一さんの『Aqua』を盗作したのではないか、という疑惑が起きていました。
これは、もちろん坂本さん側からの指摘ではなく、噂からの騒動で、It Music Creativeへも「誰かがあなたの曲を盗作しています。」と、情報提供があったそうです。
ユ・ヒヨルさんは、「長い間、最も影響を受け、尊敬していたミュージシャンなので、無意識に覚えていたメロディーで曲を書くことになりました。発表当時は、自分の純粋な創作物だと考えていたが、2曲の類似性は認めざるを得ませんでした」と謝罪されました。
先ほどの、「先人、尊敬するアーティストからインスピレーションを得ていた」ケースのひとつですね。
ユ・ヒヨルさんは、意識的に盗用したのではないのに、冷静に分析して、謝罪されていることが、すごいですよね。
坂本龍一さんとスタッフさんは、「盗作という論点には合致しないと判断した」と明かし、坂本さんは、ユ・ヒヨルさんへ、あたたかいメッセージを送っています。
【坂本龍一さんから、ユ・ヒヨルさんへのメッセージ】
Kstyle 2022.6.20より
「法的措置が必要なレベルであるとは考えられません。そして、私の楽曲に対する彼の大きな敬意が見られました」
「全ての創作物は、既存の芸術の影響を受けています。(責任の範囲内で)そこに自身の独創性を5~10%ほど加味するとしたら、それは素晴らしく感謝すべきことです」
「ユ・ヒヨルさんのニューアルバムに幸運を祈り、彼にとっての最高を祈っています」
坂本龍一さんも、ユ・ヒヨルさんも、素敵なかたですね。
作曲者が同じ人だったケース
2021年、オランダのDJ兼作曲家 Luca Debonaireさんが、ご自身の曲『You Got Me Down』に『Butter』の一部が似ていると主張したことがありました。
『Butter』の作曲には、Sebastian Garcia、Rob Grimaldi、 Stephen Kirk、Ron Perry、 Jenna Andrews、 Alex Bilowitz、複数の作曲家が参加しています。
実は、この『Butter』の制作に携わったSebastian Garciaさんが、Luca Debonaireさんへも、同じメロディーを提供していたんですね。
これが、「騒動」の原因でした。
楽曲『SEVEN(Feat. Latto)』が「盗作疑惑」に巻き込まれた経緯と検証
「盗作疑惑」に対し、所属事務所は
ジョングクさんとLattoさんの楽曲『Seven』が、Fin.K.Lの楽曲『Time of mask』と類似している、と、『Time of mask』作曲者さん側からの「盗作疑惑」発信でした。『Seven』のリリースは2023年7月14日ですので、1ヶ月以上経ています。
所属事務所のBIGHIT MUSICは、『Seven』が 5人の海外作曲家がコラボして作ったオリジナル創作物であること、盗作を判断する基準である実質的類似性・依拠性など、どの基準にも適合しないことを挙げ、きっぱりと否定しています。
「盗作疑惑」報道では
●メディア「デバク」では、ある芸能関係者が、メディアに対し「(2曲の)主なメロディー音階表がとても同じであることが確認された」「韓国の有名作曲家の一部でも和声学的に同じ曲だという立場を表明した」と述べた、と報じています。(デバク2023.8.22より)
●一方、メディア「Dispatch」は、類似性について検証し、「2曲は一致しない」と分析結果を出していました。(Dispatch 2023.8.24 より)
「Dispatch」は、作曲者ヤン・ジュンヨンさん側の主張に合わせて、『Time of mask』のコーラス(52秒~1分10秒)部分と『SEVEN』のブリッジ(55秒~1分3秒)部分にフォーカスして、検証しています。
【ヤン・ジュンヨンさん側の主張】
「キーは違うかもしれないが、4小節部分の、2曲のキーを合わせると、同じキーネームが見つかる」(Dispatchの電話取材に答えて。)
【Dispatchの検証①】
『SEVEN』は、メジャー(長調)の曲
『Time of mask』は、マイナー(短調)の曲
メジャーとマイナーはスケールが違う。 つまり、2曲のキーを一つに合わせることはできない。
Dispatchは、ヤン・ジュンヨンさんの主張を最大限反映するために、恣意的に調号を同じにして検証。
(『SEVEN』をC Keyに、『Time of mask』をAm Keyに変えた。)
検証結果…同じメロディーは無かった。
【Dispatchの検証②】
ヤン・ジュニョンさん側の主張は「キーを調整すればキー音名(계이름)が一致する」というもの。
今度はメロディの開始音を同一線上に移して検証。
『Time of mask』は、そのまま(Am)置き、『SEVEN』のキーを「F」で合わせ、メロディの開始音を同一線上に移動して検証。
メロディの冒頭を合わせると、同じ部分はあるが、「調」が違う。
検証結果…2曲の調とメロディーは、同時に一致しないということが分かった。
Dispatchは、「キー、進行、拍子など一致する部分が見当たらない。」と結論づけています。
スケールとは
主役の音から始まる、音の連なり(音階)
「スケールの基準になっている主役の音」が「曲のキー」です。
例えば、Cメジャースケールは、「CDEFGABC(ドレミファソラシド)」、キーは「C」。
・「ドレミファソラシド」は、イタリア語。「CDEFGABC」は英語。(日本語では「ハニホヘトイロハ」。)
始めの音は「ド」=「C」です。ド=Cが主音の長調の音階なので、「Key=C」(日本語では「ハ長調」です。)
・「ラシドレミファソラ」は、「ABCDEFGA」になります。(日本語では、「イロハニホヘト」。)
Am Keyは、Aを主音としたマイナーの音階です。(日本語では「イ短調」です。)
ヤンさん側は、Dispatchの取材に対して「メロディが同じであることが重要ではないか」とし、「私が聞くには疑わしいほど似ている」としながらも、「(ただ、『SEVEN』制作陣が)それとなく、同じメロディーを書いた可能性はある」と、着地点を示唆するような発言もしています。
なぜ、「盗作疑惑」になったのか?
ジョングクさんの『Seven(Feat. Latto)』は、Andrew Watt、Cirkut、Jon Bellion、Theron Makiel、フィーチャリングしているLatto、の 5人の外国作曲家の方々の共作です。
プロデュースは、Andrew Watt、Cirkut。
Andrew Wattは、Justin BieberやMiley Cyrus、Ozzy Osbourneなどのアルバムをプロデュースしてきた経歴があり、2021年のグラミー賞最優秀プロデューサー賞を受賞した、アメリカの音楽プロデューサーです。
Cirkutは、カナダの音楽プロデューサーで、The Weekndのアルバム『Starboy』のプロデュースで、2018年のグラミー賞最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞を受賞しています。作曲し、プロデュースした曲には、ビルボード ホット100 で 1 位となったKaty Perryの「Part of Me」、「Roar」などがあります。
このそうそうたる制作陣の方々が、24年前(1999年)の楽曲である『Time of mask』を参考にして作曲した可能性は限りなく低いと見られています。
それは、ヤン・ジュンヨン(양준영)さん側も、十分ご承知のことと推察されますし、前述の通り、盗作ではなく同じメロディーを書いた可能性があるということにも、言及しています。
それではなぜ、「盗作疑惑」は起きてしまったのでしょう?
Dispatchの取材の中で、ヤンさんは「金銭などを求めたわけでもありません。ただ同じメロディが書かれて異議を申し立てただけです。」とも答えています。(Dispatch 2023.8.24 より)
理由がまだ謎ですが、ヤンさん側も、似ていると感じているものの、盗作の可能性は低いことを承知で、それでも、2曲の分析を公の場で検証してみたい、ということなのでしょうか(ここは、あくまでも私見です)。
いづれにせよ、この騒動は、誰も(ヤンさん側も)、幸せにしませんよね。
作成者が知らないうちに「盗作疑惑」騒動が起きていたケース
過去にも、2021年、BTSの『Butter』がゲーム『MONSTER IN MY POCKET』のBGMと似ている、という「盗作疑惑」が出たことがありました。
『MONSTER IN MY POCKET』作成者である中村康三さんは、「盗作疑惑」についての記事を見て、びっくりします。
記事には、まるで作成者がその主張をしているように書かれていたのですが、中村さんにとっては全く身に覚えもないことで、記事を読むまで『Butter』も、聞いたことがなかったそうです。
記事の内容には作成者は
”サンプリングのレベルではなく、ほとんど同じに聞こえる」と主張しました。”
とか書いてるけど、作者の自分はそんな事は一言も言ってないし
いったい誰が言ったのでしょうね(笑)
中村康三さんブログ 2021.7.20より
中村さん、びっくりされたことでしょうね。
中村さんは、BTSのこの曲は知らなかったので、聴き比べてみたそうです。確かに似ているけれど、偶然と思う、と述べ、「面白いことがあるもんだ」とコメントを寄せていました。
BTSは知っていましたがこの曲は知らなかったので、聞き比べてみると
うーん、確かに似ているなと思いました。
まぁ偶然同じようなメロディーが出てきたのかと思いますが、面白いことがあるもんだと感心!
中村康三さんブログ 2021.7.20より
曲の権利については、「いずれにしても曲の権利はゲーム会社の方にあるので、どっちでも良いんですが・・・」と中村さん。
中村さんは、「でも自分の作ったBGMが話題になっているのはなかなか面白いですね。」と締めくくっていました。
なんと優しい!
中村康三さん作曲の『MONSTER IN MY POCKET』ステージ4のBGMです。(1992年発売のコナミのゲームです。)
何故起きてしまったのか
では、何故、作成者の知らないところで、このような騒動が起きてしまったのでしょう。
このケースでは、韓国のSNSコミュニティで、アンチの人々が 真実ではない噂を流し、それをメディアが報じてしまったため、作成者の知らない所でこのような騒動が起きてしまいました。
作成者 中村康三さんのコメントを受けて、メディアも 事の真相を伝える記事をUPしています(Danmee)。
まとめ
このように「盗作疑惑」問題には、様々なケースが見られました。
忘れないでいたいことの1つは、偶然に生まれる類似性は不思議ではない、ということですね。
今回「盗作疑惑」に巻き込まれた形になった『Seven(Feat. Latto)』と『Time of mask(가면의 시간)(仮面の時間)』。
双方の、楽曲はもちろんのこと、歌っているアーティストの方々、ファンの方々(グクさんとFin.K.L.、両方のファン!というかたも大勢いらっしゃることでしょう…)、楽曲制作に関わった全ての方々を、悲しませる出来事となってしまいました。
事務所同士での話し合いの行方は、注視していきたいと思いますが、平和的に決着してほしいですね。
『Seven』も『Time of mask』も、両方、素敵な楽曲ですもの♪
♥『Time of mask』とFin.K.L.については、こちらにまとめています。↓
♥ジョングクさんと『Seven』でフィーチャリングし、作曲にも参加されたLattoさんについてまとめています。↓
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