韓国からDPRK(北朝鮮)へ向けての拡声器放送のニュースがあったことが、日本でも報じられました。
2018年から中断していたのに、放送が再開したということで、心配されている方も多いかと思います。
BTSの歌が流れたことで、ファンからは「彼らを政治利用しないでほしい」という声もありました。
そこで、「そもそも、どうしてこうなった?」というところから、お伝えしていきます。
「拡声器放送」について
南北軍事境界線付近の非武装地帯にある拡声器を使って、韓国国防軍が、DPRK(北朝鮮)に向けて行う放送です。
停戦協定後、1962年が最初の拡声器放送でした。
その後、幾度か南北関係により、停止と再開を繰り返しますが、2018年、南北首脳会談が実現、「板門店(パンムンジョム)宣言」が発表され、それに基づき拡声器を撤去していました。
ですが、今回、この拡声器放送は 6年ぶりに「再開」となってしまいました。緊張が高まる可能性があると心配する声が上がっています。
【2018年南北首脳会談とは】
2018年4月27日に板門店で開催された、南北コリアの、ムン・ジェイン大統領とキム・ジョンウン国務委員会委員長の、両者による首脳会談。
南北の軍事境界線をまたぐ板門店で、首脳会談が11年ぶりに実現し、完全な非核化実現を目標にかかげた「朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」への署名が行われました。
当時のニュースでは、南北分断後、初めての境界線を越えての会談が、大きく伝えられています。
境界線を挟んで韓国側で待つ文氏の姿を認めると、満面の笑みを浮かべた。両首脳は午前9時29分、軍事境界線を示す幅約50センチ、高さ約5センチのコンクリート製の縁石を挟んでしっかりと握手した。金委員長が、境界線で文氏に迎えられるのは「本当に感動的だ」と話すと、文氏は「金委員長の英断だった」と応じた。
文氏の「こちらに立ちますか」との言葉に金委員長は縁石をまたいで韓国側に入った。
南北分断後、北朝鮮の最高指導者が初めて韓国側に入った瞬間だった。
産経新聞 2018.4.27 より
これには、プレスセンターの記者さんたちが「おーっ」と歓声をあげ、拍手がわき起こったといいます。
また、2018年には、史上初の米朝首脳会談も行われています。
6年ぶりの「拡声器放送」までの経緯
ムン・ジェイン政権の時、「DPRK(北朝鮮)向けのビラ散布」が2020年から2023年まで禁止されていましたが、2023年、裁判所が「表現の自由を侵害する」「違憲」と判断しました。
そして今年(2024年)5月10日、韓国の脱北者団体が、体制に反対するビラ30万枚をDPRKに飛ばし、それを受けてDPRK側も「ゴミ風船」を飛ばした、という事態に。
またそれを受けて、韓国は、軍事境界線に拡声器を設置し、6年ぶりの拡声器放送を行うことになってしまいました。
人道支援として、「海に流す」活動もある
一方、脱北者団体「クンセム」は、DPRKに向けて、海流に乗せて お米とUSBメモリ入りのペットボトルを流す活動をしていました。
(「クンセム」パク代表)
「江華島から送ったら、北朝鮮のクァイル郡までいく。早ければ4時間で届く。北朝鮮で飢えに苦しんでいる人に米1キロで助けられるか分からないが、それでも少しでも役に立てればという気持ちで送っている」
「中には『愛の不時着』や『外国人が見た南北の違い』を入れている。このUSBメモリーが彼らへの明るい光となって、北朝鮮の社会が少しでも豊かで自由になるその日まで、力の限り送り続けるつもり」
テレ朝ニュース 2024.6.10 より
DPRKでは、外国のコンテンツを観ることも禁止されています。
しかし、このUSBメモリーが、DPRKの市民には響いているといいます。
拡声器放送 流した内容
以下は、行われた拡声器放送の内容です。(放送は、午後4時55分から2時間。)
- 国歌が流れる
- 「北朝鮮同胞の皆さん、こんにちは」というアナウンサーの挨拶
- 韓国政府が拡声器放送を開始した理由・これまでの経過についての説明
- 「韓・米・日3カ国は4日、オーストリア・ウィーン国際センターで開かれた国際原子力機関定期理事会の共同発言で、北朝鮮の軍事偵察衛星の発射に深刻な懸念を表明した」との国際情勢を紹介
- サムスンの携帯電話が世界38カ国で出荷量1位を獲得したニュース
- 北朝鮮住民が、金正恩体制の外部映像物視聴及び流布に関する取り締まりと検閲強化に苦しんでいるという、国内北朝鮮専門メディアの報道内容
- 「こちらは大韓民国ソウルからお送りする自由の声放送です」という案内が再び流れる
- 北朝鮮の、来週の地域別の天気を詳しく紹介
- 「北朝鮮の市場物価動向」を紹介。北朝鮮で取引される米国ドル、中国ドル、米、トウモロコシ、ガソリン、ディーゼル油の取引価格を詳しく紹介
- 「ソウル語と平壌語の違い」の解説
(参考:조선일보(朝鮮日報)2024.6.10 より)
この地域別の天気予報は DPRKの市民の皆さんに人気で、「聴くなと言われても、何とか耳をそばだてて聴いていた。天気予報、すごく助かった」と脱北民の方が話していらっしゃったそうです。(norakoreaさんYouTubeより)
放送で流れた曲は、BTSの3曲、BOL4(볼빨간사춘)の曲
放送の合間には、BTSの『봄날 (Spring Day)』・『Dynamite』・『Butter』、そしてBOL4(볼빨간사춘)の曲が流れました。
これはDPRKの若い人たち…「MZ世代」の人たちに向けて、ダンス曲を中心に選曲したことに対しての評価もあるといいます。(参考:연합뉴스TV 2024.6.10 より)
韓国でMZ世代とは1981~2010年生まれの世代を表します。
北コリアの軍人さんたちが喜びそうな曲を選んで、かけているんですよね。
「BOL4」(Bolbbalgan4/볼빨간사춘)は、アン・ジヨンさんによる1人デュオ。
ウ・ジユンさんとの2人デュオでしたが、2020年にウ・ジユンさんが脱退、以降 1人で活動しています。
2019年に「赤頬思春期」(あかほししゅんき)という名で日本デビューしています。
韓国の人々の思いについて
「DPRKの人々に、救いの放送となる」という声もあり、「今、大切な家族が兵役服務中で、最前線にいるので、刺激するようなことはやめてほしい」という切実な声もあります。
ネットニュースのコメント欄にある意見をご紹介します。
신나고 즐거운 노래 많이 들려줘서 삶의 행복감이 뭔지 인간의 가치를 느끼고 싹틀 수 있게 새 삶을 배우게 하고 한반도 평화 통일로 가자!
(楽しくて楽しい歌をたくさん聞かせ、人生の幸福感が何なのか、人間の価値を感じ、芽生えるように新しい人生を学び、朝鮮半島の平和統一に行きましょう!)
BTS 노래? 나는 하나도 모르는데~
차라리 싸이 강남스타일 틀지~
(BTSの歌? 私は全然知らないけど
むしろサイの江南スタイルを流そうかな~)
북한주민들에게도 자유를 누라고 사람 다운 삶을 살 수 있을 때까지 구원의 방송은 계속되어야 합니다.
(北朝鮮住民にも自由を享受し、人らしい生活を送ることができるようになるまで救いの放送は続けなければなりません。)
(参考:조선일보(朝鮮日報)2024.6.10 より)
そして、心配する声の方は…とりわけ息子さんや甥っ子さん、ごきょうだい、恋人が兵役服務中、という方々から、本当に心配する声が上がっています。「これ以上、刺激し合わないでほしい」と、切実な思いでいらっしゃいます。
筆者は日本に住んでいるのですが、やはり、韓国に友だちが多くいますので、なんとか、収まってほしいと願うばかりです。
こちらは韓国に暮らしている norakoreaさんのYouTubeです。
甥っ子さんが、今、兵役服務中で、軍事境界線近くで勤務されているのだそうで、ご家族は本当に、心配されています。
一方、norakoreaさんのお知り合いに脱北民の方がいて、「外の情報を入れてあげることは、大切だと思う」とおっしゃっていたのだそうです。
筆者も、DPRKの市民の皆さんが、外国の情報にアクセスできるようになることを願う1人であると共に、 南北コリアの双方のお若い兵士の方々に、どうか何もないことを、緊張状態にこれ以上ならないことを祈るばかりです。
norakoreaさんの甥っ子さんはじめ、兵役服務中のお若い方々が、お怪我なく、健康で過ごせますように。
DPRK(北朝鮮)にもBTSのファンがいる
DPRKにも、BTSのファンはいるといいます。
先ほど紹介したように、脱北民の人権活動団体が、北コリアへUSBやDVDを送る活動があり、また、韓流コンテンツが闇市でひそかに売られているともいいます。
「다시 보는 KTV」YouTubeチャンネルに出演した脱北民の方が、ドラマは閲覧に長時間かかり、見つかってしまうリスクがあるが、音楽の動画は 3分程度なので、こっそり見るのにいい、と話しています。
番組に出演した脱北民の方が、BTSは人気があるといい、『봄날 (Spring Day)』が人気だとも明らかにしています。
拡声器放送でBTSの曲が流れたのも、BTSが好きな北コリアの方々がいるから…
一日も早く平和が訪れて、南北コリアのファン、日本のファン、みんな一緒にBTSのライブに行ける日が来ますように。
私の韓国人の親友が「(東西ドイツ統一のように 経済格差の問題はあるだろうが)南北一緒になって、頑張った方が良いと思います」と笑顔で話してくれたことを思い出していました。
南北コリアのお若い人たちが、兵役に行かなくても良い世界になりますようにと、願わずにいられません。
【追記】「南北コリアと日本のともだち展」
私たちにも、祈るだけではなく、出来ることはたくさんあります!
平和交流プログラムも、2001年から行われています。
絵画展「南北コリアと日本のともだち展」は、韓国、DPRK、中国、日本に住む子どもたちが絵画を通して交流しています!
「北東アジア大学生平和交流プログラム」大学生の交流も、2018年からスタートしています。
草の根の繋がりが、広がっています ♡
私たちで 広げていきましょう!
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