11月24日、中国で性的暴行の罪を問われていたクリス(旧EXOメンバー)に 懲役13年が確定したことが、中国・韓国・日本メディアでも、一斉に報じられました。
カナダ国籍を持つクリスは、13年の刑期を終えた後、カナダに国外追放されます。
カナダは、性犯罪者に対し、化学的な去勢を実施している国のひとつです。日本では、どうなのでしょうか?見ていきましょう。
クリスの性加害事件の経緯
もし読んでいて気分が悪くなったりした場合は、記事から離れるか、目次からジャンプして下さい。
(当記事では、クリスの写真は掲載していません。画像に関しては、被告の姿が目に触れることはございませんので、ご安心ください。)
クリスの起こした事件
クリスは2020年12月、自宅でお酒に酔った女性に性的暴行を働き、また、同様の手口で3人の女性と飲酒の後、集団で性的暴行をしたをした疑いも浮上します。
さらにさかのぼること2018年7月、自宅に人を集め、知人と共謀し、女性2人に集団わいせつ行為をしていた疑いが提起されます。
ある被害者の告白(当時19歳)では、17歳のときにクリスの自宅に「キャスティングインタビューをする」と称して呼び出され、酒を飲まされた上で性的暴行を受けたことを明かしています。他にも7人の女性が同じように暴行を受け、その中には未成年の女性も2人含まれているということも告発しています。(参考:ELLE 2021.8.18 より)
捜査が進んだきっかけは、インフルエンサーの告発
クリス被告の性加害事件の捜査が進み、立件出来た背景には、被害者のひとりからの、勇気ある告発がありました。
2021年7月18日付けの中国の大手ニュースサイト「網易新聞」が、女性インフルエンサー大学生の告白を掲載しています。当時17歳でありながらクリスに飲酒を強要され、避妊なしの性的暴行をされたというショッキングなものでした。(参考:BIGLOBEニュース 2021.8.3 より)
そして、彼女はクリスへの手紙という形の告発文を、(中国版Twitterにあたる)微博(ウェイボー)で公開します。
告発文では、クリスが、彼女に対して行った性暴力を明かし、彼女自身を含む多くの若い被害者の方々の苦しみを綴って、クリスに謝罪を求めます。
以下に、告発文の一部を抜粋します。
「あなたの今回の出来事は、中国の芸能界の問題だけでなく、中国全体の社会問題になっています。
今私が握っているあなたの秘密が公になれば、少なくとも10年は刑務所にいくことになるでしょうね。」「あなたに傷つけられ、うつ病になったり、自傷行為をするようになってしまった人たち、あなたのために中絶したり、性病をうつされた人たち、まだ20歳そこらであなたのせいで髪が抜けてしまった人たち、こういう人たちのことあなたは知っているの?」
「私に連絡してきた被害者の子たちについて、あなたは公に被害を訴えないだろうと高を括っているんだろうけど、でもね、被害者たち一人一人から聞いた被害は、生々しいものでしたよ。」「もう怒りの限界ですよ。」
「あなたたちは、毎日朝から晩まで連絡してきて証拠を見せろと言ってくるけど、私が握ってるとんでもない情報を公開したら、私が勝つことは当然よ。でも、私が他の女の子の被害を公開しない理由を考えたことある?公開すれば、被害者たちもメディアの追及に遭って、被害者たちの人生は、私と同じように完全に壊れることになるのよ。」「私の人生はもうすっかり壊れてしまった。でも、被害者たちの人生を壊すわけにはいかない。私は人間だから。」「また泣きそうになっちゃった。」
(引用元:BIGLOBEニュース 2021.8.3 より)
「呉さん、あなたは24時間以内に、記者会見会を開いてください。全世界に向け、中国の芸能界から引退することを表明してください。また、あなたと連携してきた企業に謝罪し賠償を行ってください。地下鉄や建物に掲示されているあなたが出演している広告物などの撤去をしてください。そして、全ての被害者たちに、謝罪の手紙を書いてください。」
涙無しには読めませんでした。19歳(被害当時は17歳)の被害者が、このような苦しい告白をしなければならないなんて。
当時この投稿に対して、クリスはウェイボーでこれを否定し「告発は悪意のある噂だ」と主張していましたが、反響は大きく、公開から24時間後には、クリスと広告契約を交わしていた企業11社はすべて契約打ち切り、あるいは一時中止を発表しています。
(テレビ局「CNN」や「ビルボード」の報道によると)中国の警察は、この告発を重く見て捜査を開始します。
そして、クリスを2021年7月末から拘束し事情聴取、8月16日に検察は正式に逮捕すると声明を発表するに至ったのです。
(参考:ELLE 2021.8.18 より/文春オンライン 2022.3.17 より)
拘留から逮捕、一審へ
時系列でお伝えしますと
2021年7月31日、強姦罪で刑事勾留(逮捕と同類)へ。
2021年8月16日、クリスに正式に逮捕状が出されます。
勾留状態のまま取り調べを受けたクリスは、2022年6月に強姦および集団わいせつ罪で起訴され、裁判を受けることに。
同年11月25日、北京市朝陽(チャオヤン)区人民裁判所で一審が行われ、クリスの容疑を有罪と認め強姦罪に懲役11年6カ月、集団わいせつ罪に懲役1年10カ月がそれぞれ宣告されました。
最終審の判決は懲役13年
2023年11月24日午前、北京市第3中級人民法院は、強姦罪 及び 集団わいせつ罪で起訴されていたクリスの控訴を棄却し、懲役13年を宣告、原審を維持しました。
(中国は2審制を採択しており、控訴審が最終審となります。)
同裁判所は「ウー・イーファン(クリス)は多数の被害女性がお酒に酔った状況を利用して性行為をしたため、それは強姦罪に該当し、人を集めてわいせつ活動を行ったうえ、その主犯であるため、集団わいせつ罪も該当する」とし「原審判決が認めた事実関係が明らかであり、証拠が確実で十分だ」と判決理由を述べています。
2022年11月25日に、クリスは懲役13年の判決を受けています。一審裁判にはクリス(ウー・イーファン)がカナダ国籍であるため、中国駐在カナダ大使館 関係者らも出席し、裁判を見守っていたようです。
(参考:K-POPNEWs365 2022.11.25より)
この度は、2審控訴が棄却され、懲役13年の実刑判決が確定したということになります。
繰り返しになりますが、強姦罪で懲役11年6カ月、集団わいせつ罪で懲役1年10カ月、合わせて懲役13年、刑期終了後には、国外追放の処分を科されます。
カナダの性犯罪対策は?
カナダ国籍であるクリスは、中国の刑務所で13年間収監され、その後、カナダに追放されることになりますが、カナダは性犯罪者に対し、化学的な去勢を実施している国のひとつでもあります。
化学的去勢とは、性犯罪者に薬物あるいはホルモンを注入し、強制的に性欲を抑制するものです。
また、カナダでは化学的去勢と共に、家族相談やグループ相談、認知行動療法を並行して行っています。
化学的去勢が導入されている国は?
性犯罪者に対する化学的去勢の制度を導入している国は、アメリカ、ポーランド、ドイツ、フランス、韓国、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、エストニア、アイスランド、ラトビア、 スウェーデン、チェコなどがあります。
性犯罪加害者への「化学的去勢」 日本では?
日本では、薬によって性衝動を抑える化学的去勢の刑罰は、ありません。
「化学的去勢」何が問題?
日本で、物理的に性器を切除するという刑罰を科すことは憲法違反に当たりますが、「化学的去勢」は、「刑罰」としてではなく「薬物療法」の一環として、議論され、2018年には法務省が、元受刑者らに国費で薬物治療や認知行動療法を受けさせる制度を整備することを検討していました。(参考:THE SANKEI NEWS 2018.8.5 より)
議論のうえで問題になっているのが、薬物療法は 副作用のおそれがある事です。
そして「性欲」そのものは、人間の自然な機能のひとつであり、これを(薬の力で)抑圧することは人権侵害にあたるから許されないという考えもあります。
「化学的去勢」に再犯防止の実効性があるのか疑問を呈する人もいます。
(参考:弁護士ドッドコムニュース 2014.12.30 より)
日本での性犯罪に対する取り組みは?
性犯罪治療プログラム
現在、刑務所や保護観察所では、性犯罪者に対して、「認知行動療法」を基礎にした更生プログラムが用意されています。
病院や地域でも、それぞれの取り組みがあります。
治療可能な医療機関は全国に数ヶ所、という地理的な要因があり、遠方に住む加害者の受講は今まで困難でしたが、「オンライン・性犯罪治療プログラム」の取り組みを開始した東海地区の病院により、全国からのプログラムへの参加が可能になりました。(参考:PRTIMES 2022.12.16 より)
「薬物療法」も行っている日本の専門医療センター
「刑罰」としての「化学的去勢」は日本にはありませんが、「薬物療法」を行っている専門医療センターは日本にもあります。
性障害専門医療センター SOMEC では、認知行動療法と併せて、薬物療法も行っています。
これは必ず認知行動療法とセットです。
薬物療法は、性衝動が高い場合や、性についての考えに囚われている状態などに対して、対症療法的に行います。
引用元:性障害専門医療センター SOMEC
そのため、当センターにおいては、薬物療法のみの治療は行っておらず、並行して毎月の認知行動療法のグループへの参加が処方の条件となっております。
また、原則23歳以上が適用の対象となります。
性障害専門医療センター SOMECでは、専門職(医師、福祉職や心理士など)向けにワークショップも行うなど、経験やノウハウのシェアも行っています。
犯罪者を生まないために
また、性依存行動の多くのケースは、ストレスに起因します。
性嗜好行動でストレスが緩和すると、次にも同じように性嗜好行動でストレスに対処しようという学習がなされていき、そしていつの間にかストレスの対処行動だったものが、性嗜好行動そのものが目的となっていく性依存症に陥ります。
衝動が抑えられず、性犯罪を起こしてしまうケースは、後を絶ちません。
性犯罪は、厳罰化だけでは無くせません。「化学的去勢」について、日本でも、もっと議論されるべきでしょう。
そして ストレスが無い社会を考え、創ること、ストレスの正しい対処方法を学ぶことはもちろんのことですが、何よりも大切なのは、犯罪者を生まない、性教育を含む人権教育と考えます。
決して人を「犯罪者」にしないために。
みんなが子どもの頃から、人に大切にされて育つことが大切と考えます。
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