小泉今日子さんと有働由美子の対談で、今日子さんの「(バラエティ番組は)絶対出たくないですね。」「くだらないから」の言葉が物議をかもしています。
それにはちゃんと理由があったのですが、どうやらその言葉だけが一人歩きしているようです。
小泉さんから、なぜその言葉が飛び出したのかを、解説したいと思います。
小泉今日子さんが、対談の中で話したこととは?
小泉今日子さんと有働由美子さんが対談したのは「文藝春秋」2月号「有働由美子のマイフェアパーソン 第61回」。
有働さんが、最近テレビのバラエティ番組でお見かけしませんね、と尋ねると、小泉さんは「絶対出たくないですね。」とキッパリ。
有働 なぜですか?
小泉 くだらないから。
有働 ワーオ! どういうところがくだらないですか?
小泉 どういうところも何も、素敵だと思いますか?
有働 ……実は私もあまり見ないので、コメントが難しいですね。でも、小泉さんが昔、出ていた頃のバラエティと何が違いますか?
小泉 たぶん、昔と同じだからマズいんじゃないですかね。世の中がガラッと変わっていっているのに、昔のムードのまま押し通そうとしている。テレビ局は変わらないとマズいよね、と思っています。
引用元:文春オンライン 2024.1.17 より
小泉さんが「くだらない」と言ったのは、昔から今に続く 日本のテレビ番組の〝良くないムード″に対してです。
「世の中が変わっていっている」というのは、アメリカ発祥の #MeToo運動の広がりから、現在は日本でも、少しずつ人権に対して声をあげることができるようになってきたことですね。
しかし、日本のテレビ番組の雰囲気は、未だに昔のまま、変わらないよね、という。
有働さんが「はっきりおっしゃるんですね。」と言うと、小泉さんは「はっきり言います。」と、これまたキッパリ。
これには「スッとした!」と共感されたかたも多かったようです。
「キョンキョンは、モジモジくんに出ていたのになぜ?」
しかし、この文藝春秋の記事の中身まで読まれずに「くだらない」の部分だけが切り取られて拡散してしまいます。
このような声がSNSで散見されました。
「キョンキョンは、モジモジくんに出ていたのに?」
アイドル時代の小泉さんが、バラエティ番組に出ていたのに、なぜご自身の出演番組を否定するの?といった声です。
確かに、小泉さんは、色んなバラエティ番組に出演されていました。その中でも「モジモジくん」を思い出した人が多かったようです。
「モジモジくん」とは
「モジモジくん」とはフジテレビ系列のバラエティ番組「とんねるずのみなさんのおかげです。」(1988年10月13日~1997年3月27日放送)の1コーナーでした。
「ひらけ!ポンキッキ」の人文字コーナーのパロディで、出演者が全身タイツ姿に身を包み、壁一面に配置された取っ手に登って、お題の文字を表現する企画です。
当時、ご覧になっていた人は分かると思いますが、このコーナーで、3人が全身を使って文字を作る過程で、男性お笑い芸人の2人が、当時アイドルだったキョンキョンに顔を極端に近づける、スカートをめくる、股間を押し付けるマネをする、などの演出があったんですね。
また、当時 この番組に準レギュラーで出演していた女性芸能人のかたが、出演していた芸人とチーフディレクターを、セクハラで東京地方裁判所に提訴したこともありました。(※小泉さん、渡辺さんではありません)
そしてまた、性的少数者への差別・偏見を助長する表現もあり問題になったことも。
後発番組の「とんねるずのみなさんのおかげでした」時代の2017年にも そうした表現を使い、フジテレビの宮内社長が謝罪しています。(参考:スポニチアネックス 2017.9.30 より)
当時、「下ネタ」として、女性をおとしめる演出は、この番組だけではありませんでした。
また、無理な演出をした結果、出演者に重傷を負わせたバラエティ番組もありました。
95年には、『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』(日本テレビ)の撮影で元オリンピック選手の秋元正博がジャンプ台から飛び降りた際に着地に失敗。頸椎損傷の重傷を負っている。
引用元:exciteニュース 2016.10.9 より
同番組は2001年にも出演者の負傷事故を起こしている。スペインで闘牛に挑戦する企画で、THE ALFEEの高見沢俊彦が左手人さし指を骨折したのだ。全治6週間であったという。ギタリストにとって左手の指は大事な商売道具。
昔のバラエティだけではなく、今も続いている問題
これは昔だけではなく、小泉さんの指摘されているように、今も続いています。
2022年にも、松本伊代さんが腰椎を圧迫骨折したことは、皆さんの記憶に新しいと思います。
TBS系バラエティー番組「オオカミ少年」に松本さんが出演した際に、「クイズで不正解したら落とし穴に落ちる」という演出で、松本さんが加療3か月の腰椎骨折の怪我を負ってしまいました。(参考:読売新聞オンライン 2022.11.26 より)
つい先日(2024年1月現在)筆者も、座ろうとした人の椅子を突然引く「椅子引き」や、「暗闇の中で歩かせて、大きな音で脅かす」演出を、地上波のバラエティ番組で観たばかりです。
「人をあざ笑う」演出や、ケガの危険性のある「バラエティ」が、今もまだあるという問題があります。
小泉さんの言う通り、テレビ番組は変わっていかなければなりませんね。
「椅子引き」ひとつ取っても、大怪我を負う危険性があることが一番問題ですが、「それを皆で笑う」という雰囲気は無くさないと「マズイよね」と筆者も、切実に思うのです。
小泉さん「おかしな構造になっていった」
また、小泉さんは昨年、TBSラジオ【Yahoo!ニュース voice in Session】( by 荻上チキ・Session~発信型ニュース・プロジェクト)の中で、芸能界の構造について、話しています。
Q:昨今、芸能界が抱える問題についてたびたび取り沙汰されていますが、長年芸能界で活躍されている小泉さんはどのように見ていますか。
小泉さん:昔は出演者とスタッフみんなが、いいものを作るためにどうしていくべきか、といった空気感があったけど、途中から違うものが入ってきておかしな構造になっていったなっていうのは、なんとなく感じていました。
何というか、〝ほどきようのない関係″みたいなものができているというか。自分もその中にいたので、何か違う力が作用しているなというのはうっすら感じていました。
TBSラジオ【Yahoo!ニュース voice in Session】/ Yahoo!ニュース 2023.12.28
それがいいとか悪いとかって言える立場ではないんですけど、プロダクションの方が強くなっていった時期はあったような気がします。
もしかしたら昔からそういう構造はあって、単に私が子どもだったから見えなかっただけかもしれませんけど。
また、小泉さんは、「歌手やタレントが〝政治的発言″をするな」という言われ方をするけれど、意見を自由に言うことは「ひとりの国民として普通じゃないかな」と言います。
アメリカなどでも、歌手や俳優が意見表明をすることは、ごく当たり前ですよね!
小泉さんは、叩いてくる人たちよりも「言いたいことが言えないって思っている人たちが、ちょっとでもスカッとするなら、私はそっちを見ようと思って」と、弱者側に寄り添います。
「例えば私が言ったことに対して、すごく気持ちが楽になったとか、私も同じ気持ちで、あ、何かひとりじゃないんだ、って思えたっていう人が私に送ってくれる文章って、ホントにひとりの人の文章なんですよね、それの方が信じられるっていう感じはあります。」と、穏やかな表情、言葉で語りました。
小泉今日子さんの言葉の意味
「モジモジくん」に出演していた当時、アイドルであった小泉今日子さんは お仕事ひとつひとつに全力で取り組んでいたと思います。セクハラに対して嫌だと言える雰囲気ではなく、そんな企画を止めてくれるスタッフもいない、そんな「バラエティ番組」の中にいた当事者だったからこその、苦言でしたね。
今日子さんの「くだらない」というフレーズは、逆に、とても優しい言い方ではないでしょうか。人を責めず、それでいて、その事についての意見をきっぱり言って下さっています。
対談相手の有働さんも、同じように、人柄を批判するのではなくて、「事柄批判しようよ」と仰っていました。
素敵なお2人でした!
有働さんと小泉さんの対談も、ぜひ読んでみてくださいね。
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