10月12日、BTSのナムさんとテテが、インスタストーリーで、ハン・ガンさんのノーベル文学賞受賞をお祝いしました。
ハン・ガンさんは、韓国の作家です。
アジア人女性初・韓国人初のノーベル文学賞受賞者となり、その著書にまた注目が集まっています。
ナムさん、テテさんが読んだハン・ガンさんの小説『少年が来る』とは どんな話なのか、どうやって生まれたのか、ご紹介します。
BTSの楽曲『Ma City』は、この小説と同じテーマを扱っています。
同じ頃に生まれた小説と、楽曲。そのそれぞれの想いも、深掘りしていきます。
ナムさん、テテが、インスタで ハン・ガンさんノーベル賞受賞をお祝い
ナムさんとテテが、インスタストーリーに同じニュースをシェアしたのは、2024年10月12日。
作家のハン・ガンさんが、ノーベル文学賞を受賞した日です。
2人は、インスタストーリーで ハン・ガンさんのノーベル文学賞受賞ニュースをシェアしてお祝いしていました。
こちらは、ナムさんのインスタストーリーです。
ナムさんは、「😭💗」の絵文字で喜びを表していましたね。
テテさんも、同じくニュースをシェアして、コメントを寄せています。
テテさんのコメントです。
작가님! 소년이 온다 군대에서 읽었습니다. 흑 축하드립니다!🙇🏻♂️
(出典:テテInstagramより)
【テテのメッセージ和訳】
チャッカニム(作家さん)!『少年が来る』、軍隊で読みました。(感涙)おめでとうございます!🙇🏻♂️
「작가님(チャッカニム)」の「작가」は「作家」です。
小説家だけではなく、テレビの現場の構成作家や脚本家を呼ぶ時にも使われます。
「님」(ニム)は敬称です。
日本語で例えると、(作家の)「先生!」といったニュアンスですね。
ハン・ガンさんの著書『少年が来る』について
テテは、インスタストーリーで、『少年が来る』を軍隊で読んだと言っていましたが、この本、以前ナムさんも、紹介していたことがあります。
『少年が来る』は、どんな話?
ナムさんとテテが読んだ本、『少年が来る』は、どんな話なのでしょうか。
『少年が来る』は、実際に1980年に起きた「光州事件」をテーマに、描かれた小説です。
『少年が来る』は、小説ですが、事実がベースとなっています。
光州事件の被害者、生存者、家族…それぞれがどんな生き方を余儀なくされたのか、それを伝え、人間とは、を問いかけます。
武力弾圧で親友を失った少年。遺体安置所で手伝いをするのはまだ中学生。
逮捕された人が受けた拷問の記憶。
生き残った人の後ろめたさ、苦しみ。
この物語には、どの章にも「ドンホ」という人物が居て、「ドンホ」を「君」という二人称で語る話者が、年代を超えて登場します。
ドンホと一緒に、この小説の中を読者が進んでいくと、時間を越え、小説と読者が繋がることができる(ーあるいは、私たち自身の中にあるものと対話をするー)、そんな体験ができる物語です。
非常に重く、残酷な描写もあります。
人間の持つ醜さや残酷さ…人間とは?というものを普遍的に問いかける(ー国籍や民族性ではないー)作品であり、光州事件で亡くなられた方々への鎮魂であり、愛でもある物語です。
光州事件、学校教育での取り扱いは?
ハン・ガンさんは光州生まれです。
1970年生まれのハン・ガンさんは、この光州事件の数ヶ月前にソウルに引っ越していました。
まだ彼女が 9歳であった頃に起きた光州事件。
むろん、ハン・ガンさんが小中学校の頃の 学校教育では、光州事件は取り扱われませんでした。
歴史的に復権されるまでに、時間がかかったのです。
ようやく学校教育で扱われるようになったのは、1997年からです。
教科書には、詳細な内容が載っているわけではないのですが、
国語の先生や国史の先生が副教材として『少年が来る』を使っているケースもあります!
『少年が来る』ビハインドストーリー
ハンガンさんは、この小説を書くにあたって、直接、生存者やご遺族の方には、絶対にインタビューをするまいと、思ったそうです。
なぜなら、当事者にとってあまりにそれは過酷であるから。
分厚い1,000ページにわたる証言録を読み(負傷者、目撃者、拷問を受けた方、遺族の方の証言)、そしてハン・ガンさんが、光州の人々の痛みを感じることを想像し、悩みながら書き上げていったといいます。
この物語は、市民の目線から描かれており、小説の中で「起きていること」は実際にあったこと(証言録や、家族などから聞いた話にあったこと)で、それを繋げて物語にしています。
お話しの中の登場人物が出て来る場所にも、実際に足を運び、その空間にいた人々の心情が思いうかぶまでそこにいることもあったといいます。
(参考:【文学の森】11/28『少年が来る』平野啓一郎がゲストと語る会アーカイブより)
参考資料について…この 2021年に行われたハン・ガンさんと平野啓一郎さんの対談では、『少年が来る』について掘り下げながら、この物語の核心、そのテーマについて対話されています。
ナムさん『少年が来る』を読んだ感想は?
ナムさんは、『少年が来る』を、以前ヨーロッパに行った時に、その飛行機の中と ホテルで読んだそうです。
当時、読んだ感想をこのように語っていました。
(ナムさん)「良い場面もあったのですが、本を読んで心がちょっとキツいんですよ。」
「(『少年が来る』は)文章を鮮やかにうまく使っておられて、とても印象深く読んだ本ではないかと思います。」
BTSの曲『Ma City』も「光州事件」を取り扱っています。
2015年にリリースされたBTSの楽曲『Ma City』でも、光州事件を取り扱っています。
この曲の歌詞には、それぞれのメンバーの故郷が出てきます。
ナムさん(RM)の故郷である高陽(コヤン)市の中の一山(イルサン)、
ユンギさん(SUGA)・テテ(V)の故郷、大邱(テグ)広域市、
ホビ(J-HOPE)の故郷、光州(クァンジュ)広域市、
ジミンちゃんとジョングクの故郷、釜山(プサン)広域市。
ジンさんは、歌には故郷の場所は出てきませんが、安養(アニャン)市生まれ、果川(クァチョン)市育ちです。
ホビのパートはこの曲のコアであり、ホビは光州の民主化運動に関するワードに思いを込めています。
『Ma City』の作詞作曲には、ホビ、ナムさん、ユンギさんが参加しています。
以下、光州出身のホビが歌うパートの抜粋です。
내 삶은 뜨겁지 남쪽에 열기
이열치열법칙
포기란 없지
(引用元:UTATEN )(作詞作曲:RAP MONSTER、SUGA、J-HOPE、”HITMAN”BANG、PDOGG)
【和訳】
俺の人生は熱い 南(全羅南道)の熱気
熱をもって熱を制す
法を放棄することはない
「이열치열(イヨル チヨル)」は、「熱を熱で治す」という意味のことわざです。
そして、「法を決して放棄しない」と続きます。
民主主義を決して諦めず、戦った光州の人々の思いを表しているのでしょう。
내 광주 호시기다 전국 팔도는 기어
날 볼라면 시간은 7시 모여 집합
모두다 눌러라 062-518
(引用元:UTATEN )
(作詞作曲:RAP MONSTER、SUGA、J-HOPE、”HITMAN”BANG、PDOGG)
【和訳】
俺は光州のホシギだ 全国八道は這いつくばる
俺に会いたければ 7時に集まれ
みんな押すんだ 062-518
【호시기(ホシギ)って?】
ここでは、ホビのあだ名です。
거시기(コシギ)という、全羅道(チョルラド)の方言があります。
「호석(ホソク)」さんと「거시기(コシギ)」を掛け合わせて、「호시기(ホシギ)」。
あえて方言を使い、光州への愛着を表していると思います。
【「7時」について】
「7時」というのは、ソウルを基準にして見た時に、光州が時計の針の7時の位置にあることを指しています。「7時」は、光州を卑下する意味で使われてきた言葉でした。
(参考:modelpress 2022.5.18 )
【「062-518」の意味は?】
「062」は、光州の市外局番です。
「518」は、まさに光州事件(1980年5月18日~27日)の日にちそのものです。
「光州5・18民主化運動」を表しています。
全羅道の方言を敢えて掛け合わせて、「自分の誇り」を表している表現なのだと思います。(호시기/ホシギの名前)
極右主義が、光州に対して卑下する言葉として使われてきた「7時」を一蹴し、民主化運動のくだりへ繋げています。
ちなみに、「062-518」の歌詞の元ネタは、大邱(テグ)のヒップホップクルー「D-TOWN」で活動していたユンギさんが プロデュースした曲『518-062』から来ています。
『518-062』は、光州事件が風化されないよう、思い起こすために作った曲。
ユンギさんが まだ高校生の頃でした。
また、『Ma City』ホビの歌うパートには
「나 KIA넣고 시동 걸어 미친 듯이 bounce」、
「ギア(KIA)を入れ、エンジン全開」という歌詞があります。
「KIA」の箇所で、車の「ギア」と 自動車メーカー「起亜(기아)自動車」をかけています。
(※直訳は「私はKIAを入れてエンジンを起動し、狂ったように跳ねる」)
この起亜自動車光州工場(当時の亜細亜自動車)は、1976年に韓国政府が公認する軍用車製造会社でした。
1980年5月の光州民主化運動においては、亜細亜自動車の工場にあった装甲車を市民が運転し、民間人の負傷者やご遺体を移送していたこともありました。(参考:ハンギョレ新聞 2023.5.18 )
起亜株式会社は、現在は、韓国第2位の自動車メーカーです。
2001年には、プロ野球チーム「起亜タイガース」を設立しています。
「Bounce」には、「跳ね返る、バウンドする、跳ね上がる」「激しく踊る、盛り上がる」「立ち去る(「Let’s bounce.」では「行こうぜ!」)という意味があります。
ホビは、ダンスリーダーですので、「ギアを入れて、さあ行こうぜ!」のニュアンスの他にも、「踊る」、それから野球の「バウンド」の意味も掛け合わせているのではないかと思います。
過酷な歴史を見てきた起亜自動車と、そして、光州をホームとする起亜タイガース。
「KIA」のフレーズには、光州民主化運動、そして希望や誇り、といった両方の思いが込められているように感じます。
【追記】
ホビは10月23日、光州KIAチャンピオンズフィールドで開催される韓国シリーズの始球式に出場しました。(はめていたのは、紫色のグローブ!)
10月17日に転役して、初めてのお仕事が光州なのがホビさんらしい!
「起亜タイガース」のファンでもあるホビさんにとっても、感慨深い日になったことでしょう。
ハンガンさんの代表作は?
『菜食主義者』も、人の根源的な暴力に対して、どのように拒否していくのか、というテーマの小説です。
ハン・ガンさんの受賞理由は?
ノーベル文学賞受賞者として、ハン・ガンの名前を呼んだ スウェーデンのハンリムウォンは、受賞理由について、このように評価しています。
이어 “한강은 자기 작품에서 역사적 트라우마와 보이지 않는 지배에 정면으로 맞서며 인간 삶의 연약함을 드러낸다. 그는 육체와 영혼, 산 자와 죽은 자 간의 연결에 대해 독특한 인식을 지니며, 시적이고 실험적인 문체로 현대 산문의 혁신가가 됐다”며 선정 이유를 밝혔다.
(引用元:朝鮮日報 2024.10.11 )
【和訳】(ハンリムウォンさん)「ハン・ガンは、自分の作品で歴史的なトラウマと目に見えない支配に正面から立ち向かい、人間の人生の脆弱さを明らかにしています。
肉体と魂、生者と死者の間のつながりについて独特な認識を持ち、詩的で実験的な文体で現代散文の革新者になりました。」
ハン・ガンさんがノーベル文学賞受賞を受賞されたことの意義
今回、ハン・ガンさんがノーベル文学賞受賞を受賞されたことは、大きな意味を持っています。
光州事件については、真実が歪曲されたり、事件の犠牲者に対して ヘイト発言がされるということも、起こってきました。
(日本でいう、歴史修正主義や「ネトウヨ」と呼ばれるヘイト行動と良く似ています。)
ハンガンさんは、そんな中で、『少年が来る』を書き上げます。
朴槿恵政権では、政権に反対の立場をとったとされる文化人の方々の「非公開名簿」を作成する、という事件が起きました。軍事政権に反対する光州事件を描いたハン・ガンさんも、その「ブラックリスト」対象にされてしまったのです。
『Ma City』も、朴槿恵政権の時(2015年)にリリースされました。
朴槿恵政権時…という事を考えると、スゴイ!
ホビは『Ma City』について、光州事件を「忘れてはいけない歴史」とし、伝えたいストーリーを音楽に込めて語ってみたいと思ったことを、明かしています。
(参考:Forbes 2024.10.17 )
今回、ハン・ガンさんは、2000年の金大中大統領のノーベル平和賞受賞以降、韓国人としては2人目のノーベル賞受賞者となりました。
金大中大統領は、1948年に朝鮮半島が南北に分断されて以来、2000年に初めての南北首脳会談を行った大統領です。
60年代から民主化運動の指導者として活躍、しかし内乱予備罪・陰謀罪などを理由に逮捕、死刑が言い渡されたことがあります。(のちの 2004年に無罪となり、名誉を回復しました。)
ノーベル賞受賞、そして、何よりハン・ガンさんの作品が、韓国にも世界にも、その「意味」を表明してくれていると思います。
『少年が来る』について、「BTSのRMとV」がシェアしてくれたことも大きいと思います。
日本でも世界でも、今回「ナムさんとテテが読んでいる本」だということで、世界中のBTSファンが読み、2度とこの悲劇を繰り返さないようにと、世界中で起きている暴力を止めようと、考える人が増えることでしょう。
前述のように、この小説は、「韓国のひとつの地域で起きた悲劇」を超えて、普遍的に、人間に問いかける作品です。
ハン・ガンさんは、世界から暴力を無くしていく希望について、こう述べていました。
私たちが暴力にあらがう思いがあるのであれば、国籍や民族を超えて、心で繋がって連帯することができる。
『少年が来る』に出てくる人物が、他人の苦しみに心を寄せている。そこに、道があるのではないか、と。
ハン・ガンさんの小説を通じて、BTSの楽曲を通じて、
世界の「市民」同士(ー「権力者」「国家」ではなくー)繋がる輪が、希望なのだと感じることが出来ると思います。
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