映画「オッペンハイマー」は反戦・反核映画?描かれていないこととは何か?実際に観た人のレビューも

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「反戦・反核映画」とも評されている『OPPENHEIMERオッペンハイマー)』ですが、日本での上映はまだ未定です。

【追記】映画「オッペンハイマー」の日本上映は、2024年3月29日(金)からに決まりました。

実際にはどんな映画なのでしょうか? レビューから見ていきたいと思います。

日本で映画が上映されるまで、ネタバレを見たくないかたは、お気を付けくださいませ <(_ _)>

目次

映画「オッペンハイマーで描かれなかったこと」とは?

Oppenhimer公式Xより

「原爆の父」と呼ばれるJ・ロバート・オッペンハイマーを描いた映画『オッペンハイマー』ですが、この映画に「描かれていないこと」に対して、疑問の声が上がっています。

描かれていないこと「ニューメキシコ州の地元における被害」

トリニティ実験」は、映画の主な焦点の一つです。にもかかわらず、この実験における放射線被害についての言及が描かれていないといいます。

トリニティ実験にフォーカスを当てていますが、漂流した放射性雲が、人々に影響を与えた放射性降下物のこと、数十年にわたる核実験のこと、兵士や労働者の被ばくについて、触れられていません。

(参考:DEMOCRACY NOW!JULY 24, 2023

アメリカの作家・ジャーナリストでもり、映画プロデューサーでもあるアリサ・バルデスさんは、Twitterにコメントを寄せています。

Alisa Valdesさん公式Twitterより

オッペンハイマー映画のレビュー: 「彼はニューメキシコ州ロスアラモスのほぼ荒廃した地域に建設された秘密兵器研究所の所長を務めた…」とありますが

そこにはヒスパノ人が住んでいました。 立ち退き命令が出てから、彼らに与えられた時間は24時間以内でした。 彼らの農場はブルドーザーで破壊されました。 1

Alisa Valdesさん公式Twitterより

こちらに続く、Alisa Valdesさんの連ツイ(和訳)を、まとめました。↓

それらの家族の多くは何世紀にもわたって同じ土地に住んでいました。 オッペンハイマーの乗組員は文字通りすべての家畜の頭を撃ち抜き、ブルドーザーで打ち倒しました。 人々は行き場を失って徒歩で逃げました。 土地は豊かですが、人々の暮らしは貧しいです。 彼らの土地は政府に押収されました。 2

その後研究所を追われたニューメキシコ州ヒスパノの男性全員が、オッペンハイマーによってベリリウムを扱う仕事に雇われました。 白人男性は防護服を着ていましたが、 ヒスパノ人たちは着ていませんでした。 3


ヒスパノ人男性は全員ベリリア症で死亡しました。 彼らはアメリカ国民でした。 彼らの土地は奪われ、動物は殺され、農場はブルドーザーで破壊され、彼らからすべてを奪った人々のために働かされ、その人々によって殺されました。 4

20年間、私はロイダ・マルティネスの物語に基づいた映画を売ろうと努力してきました。
ロイダ・マルティネスは、家族の土地が研究所のために押収された傑出した内部告発者です。 彼女の父親は、研究所でのベリリウム暴露により死亡した男性の一人でした。 その後、彼女もそこで働きました。 5

彼女はコンピュータの達人で、ロス アラモスの部門のトップに上り詰めました。 それから彼女は、父親と同じように研究所が殺害したヒスパノ人男性に関する情報を探し始めました。 彼女は集団訴訟を起こし、勝訴しました。 6

ニューメキシコ州の初代ヒスパノ州知事ビル・リチャードソンはロイダを州人権委員会の運営に任命しました。 その後、彼女は正当な報酬を受けていない女性科学者を代表して、ロスアラモスに対して2度目の集団訴訟を起こしました。 7

でも、いいえ。 私たちは、「事実上人口の少ない」場所で天才を指揮した「複雑で問題を抱えた」「英雄的な」白人男性についての映画をもっと望んでいます。 これらはすべて嘘です。 これは白人至上主義と軍産複合体に奉仕する神話であり、「ニュアンス」を装っています。 8

研究所がニューメキシコ州北部の地元ヒスパノ族に行ったことのせいで、私たちのコミュニティは現在、全米でヘロインの過剰摂取による死亡率が最も高い地域となっています。 世代間のトラウマと強制的な貧困は言語道断です。 私たちはオッペンハイマーの本当の物語を語ってもらう必要があります。 終わり

Alisa Valdesさん公式Twitterより

「広島、長崎での被害」は描かれていないのか?

オッペンハイマーがスクリーンを見ているシーンがありますが、「彼が見ている映像」は、この映画の観客には見せません。

オッペンハイマーが、ショックを受けている描写で、観る人を、恐怖に引き込みます。

しかしアメリカでは、「広島と長崎の犠牲者の85%が民間人であったことについては、触れられていない」「長崎についての描写が少ない」との声も上がっています。(参考:DEMOCRACY NOW!JULY 24, 2023 )(2023年7月現在)

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ノーラン監督、原爆犠牲者役に実の娘を起用

「広島・長崎の被害」について「描かれていない」と言われている本作品ですが、ノーラン監督は、娘であるフローラさんを、被爆者である“名もなき若い女性役”にキャスティングしています。

監督は、映画における自身の意図は分析しないようにしている、としつつも、この配役には大きな意味があると話しています。

「重要なのは、究極の破壊力を作り出せば、それは自分の近くの人々、大切に思っている人々をも破壊してしまうということだ。これは、わたしにとって、それを可能な限り強いやり方で表現したものだと思う」と。

引用元:シネマトゥデイ 2023.7.18

大切に思う家族が、市民が、被害に遭う恐ろしさ、悲しさ。
これは「被害」を描いているといえるのではないでしょうか。ノーラン監督が、この映画に込めた大切な思いだと思われます。

『オッペンハイマー』映画上映がきっかけで、補償運動が注目されるようにも

『オッペンハイマー』公開がきっかけとなり、トリニティ・サイト周辺地域に住む住民の被爆者補償運動が再燃しています。

110キロ離れたトゥラローサ(Tularosa)の住民にも、脳腫瘍や唾液腺ガンにかかる被害が多く出ています。

しかし、アメリカの「放射線被ばく補償法」では、トゥラローサ住民は法定適用基準を満たしていないとの理由から、補償が受けられていない、という問題があります。

今まで、抗議デモも行われてきましたが、今回の映画『オッペンハイマー』効果で、主要メディアも報道し始めたそうです。

この映画によって、トリニティ・サイト周辺地域の「被害」にも着目されるようになってきています

補償が進む一歩になるかもしれません。注視し続けていって欲しいです。

(参考:「JB press」 2023.8.3より)

映画「オッペンハイマー」映画の公開当時のレビューは(日本以外)

Twitterでは、こう指摘する人を度々見かけました(2023年8月現在)。

Twitterより

(anna sharmaさんのTweet日本語訳)

私がレビューから知る限り、映画『オッペンハイマー』は、アメリカが広島と長崎に原爆を投下したことによって引き起こされた甚大な死と破壊の描写を省略している。ごまかしだと思う。

Twitterより

確かに、オッペンハイマーが、原爆を落とされた現地の状況を見せられるというシーンで、カメラはオッペンハイマーを映しています。

【2024年3月追記】
「敢えて映像での描写をしない」ことにより、恐ろしさを際立たせるという撮り方があります。

映画「関心領域」では、ホロコーストの恐ろしさを 映像ではなく、音響で表現していました。

被害を直接見せないことで、逆にその残酷な光景を想像させるものでした。

まだ上映されていない日本からは、何が表現されて、何が表現されていないのかを、しっかりと観たい、また、映画を入り口に 当事者の実際の歴史を学ぶ機会にしたい、の声が上がっています。(2023年7月現在)

Twitterより
Twitterより

「核実験をした後にオッペンハイマーは、核兵器に対する苦悩も話している。
ノーラン監督が撮った一人の物理学者の伝記映画として是非観たいと思っている日本人は多くいるはずだ」

「マンハッタン計画について、映画だけでなく、当事者等の発した情報等を、自ら調べる機会にしてほしいよね。」

Yahoo!コメント欄より
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まとめ

グレッグ・ミッチェルさんは、映画が「描いていないこと」を「欠落はかなり深刻です。」と指摘しながらも、「この映画は、将来の危険と爆弾の脅威について人々に警告している」として「素晴らしい」とも評価しています。

ミッチェルさんは「ぜひ多くの人に見てもらうことをお勧めします。」と言っています。
(参考:DEMOCRACY NOW!JULY 24, 2023

こうして見てきますと、被害を直接的に描いていないことについて「欠落だ」という声がある一方、「これは、反戦・反核映画だ」と評する声もありました。

広島・長崎の被害に関しては、直接的に描く方法とは違いますが、間接的な手法を用いて描かれていたことが解りました。

そして、アメリカの市民から「被害が描かれていないのではないか」と声が上がったことも(その手法うんぬんについてはいったん置いておきます)、原爆の被害に心を寄せ、平和についての意識の高まりを表している、ということでもありますよね。

【2024年3月 追記】ノーランが「何を残すか、何を省くか」を、どのように決めたのか

【追記】ノーラン監督は、2024年3月のアカデミー賞授賞式インタビューで、「何を残すか、何を省くかをどのように決めたか?」を問われ、
「現実的に伝えるべき何かに落ち着くために、「American Prometheus」を読んだときの、最初の感情的な反応に導かれようとしました。それは、〝何を残すか″のガイドとなってくれました。」と話しています。 (参考:Variety公式YouTube 2024.3.11 より)

また、映画が観客に教訓的なメッセージを送るのではなく、観客が映画から感じ取ってほしい、とも。(参考:Entertainment WEEKLY 2024.3.11 より)

そして、ノーランは、被害を「描かなかった」のではなく、直接的に「見せない」手法を選んだ、ということですね。

確かに、冒頭のニューメキシコ州の地元の被害以外にも、アメリカ人、在日朝鮮人の被害等、「描かれなかった被害」は多くあり、「原爆」がもたらした「被害」というものが甚大だったことが解ります。

様々な視点から見た「被害」、そういった映画も、「オッペンハイマー」をきっかけに、これから生まれてくると思います。

【2024年4月 追記】俳優の方々は「広島の被害を実際に見て」撮影に臨んだ

原爆投下の後、広島の被害の報告を受け、「オッペンハイマーとロスアラモスの研究者たちは、原爆投下による日本人の犠牲者の映像を見てショックを受け、沈黙する」というシーンがあります。

前述の通り、映画の観客には「科学者たちの見た、被害状況」を見せていません。

しかし科学者たち…キリアン・マーフィーはじめ あのシーンに登場する俳優さんたちは、実際に広島の被害の写真を見て撮影にのぞんでいたのです。

あのシーンの俳優さんたちの反応はリアルなもので、キリアンも「できる限り、(オッペンハイマーの気持ちに)忠実に反応していました。」と話します。

(参考:Los Angeles Times 2024.2.20 より)

【2024年4月 追記】実際のトリニティ・テストの目撃証言を調査

ロスアラモスでのトリニティ実験のシーンがあります。

ノーラン監督は、この映画について「ドキュメンタリーではない」と語っていましたが、実際のトリニティ実験に関する目撃証言を調査し、当時の情景を再現するべく、様々な要素を鑑みて撮影したのだそうです。

確かに、冒頭でお伝えしたように、残念ながら 地元の人々の被害は描かれませんでした。

しかしトリニティ実験の 巨大な火、轟音の恐怖といった映画における再現シーンは、核実験の被害についても 人々に問題提起するきっかけになったかもしれません。

(参考:Los Angeles Times 2024.2.20 より)

【2024年4月 追記】演じる役の人物像を、より研究していた俳優たち

映画「オッペンハイマー」は、原作本『オッペンハイマー「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇 』(原題『American Prometheus: The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer』)を元にしています。

原爆投下決定を検討した委員会の委員長を務めていたヘンリー・L・スティムソンが、原爆投下の候補地に挙がっていた京都について、何度も反対しリストから外させたという史実があります。

ノーラン監督は、原作本に基づいて、(スティムソンが)京都を標的リストから外したのは、「(日本人にとって)京都が文化的に重要だからだ」というセリフを書いていました。

すると、スティムソンを演じたジェームズ・レマーが、ノーラン監督に「スティムソン夫妻が新婚旅行で京都に行ったことを知った」とノーラン監督に伝え、スティムソンが京都を外した理由の1つに急遽、追加されたといいます。
(参考:Los Angeles Times 2024.2.20 より)

ジェームズ・レマーだけではなく、他の俳優の方々も、オッペンハイマーの伝記を読む以外にも、それぞれの役柄の人物について、リサーチを行っていたそうです。
(参考:Los Angeles Times 2024.2.20 より)

制作チームも俳優陣も、当時を深掘りし、誠実に創ろうという思いが感じられました!

しかし(スティムソンや委員会をかばうわけではありませんが)実際には「京都を爆撃対象から外した理由の1つが「スティムソンの新婚旅行」という軽いノリではなく、原作本(つまり最初のノーラン監督の脚本のセリフ)が史実に近いです。

これは、1945年5月31日の暫定委員会での、スティムソンの冒頭陳述です。(爆撃対象を決めた時の会議ではありませんが、「可能であれば制御しなければならない」と述べています。)

このプロジェクトは単に軍事兵器の観点からではなく、人類と宇宙の新たな関係として考慮されるべきであるというマーシャル将軍と同様の見解を表明した。

この発見は、コペルニクス理論や重力の法則の発見と比較されるかもしれないが、人間の生活に影響を与えるという点では、これらよりもはるかに重要である。

これまでのこの分野の進歩は、戦争の必要性によって促進されたものであったが、このプロジェクトが意味するところは、現在の戦争の必要性をはるかに超えるものであることを認識することが重要であった。

文明に対する脅威ではなく、将来の平和の保証となるよう、可能であれば制御しなければならない

1945年5月31日 暫定委員会 会議のメモ

スティムソンのこの言葉に対し「なぜ人類は、それを制御できなかったのか」を考えざるを得ません。

スティムソン「京都新婚旅行」について

確かに、1926 年の9月と1929年3月に、スティムソン一家は京都を訪れています。しかし、「新婚旅行」ではありません。

スティムソンは、1867年生まれで、結婚したのは1893年ですが、その新婚旅行がアジアであった可能性は低そうです。

また、「新婚旅行が理由で標的から外した」という説についても、第二次世界大戦史の学者の論文などが見当たらず、スティムソンの伝記・自伝でも、そういった記述が見当たらないようです。

この「京都に新婚旅行」「新婚旅行が理由」というエピソードは、日本でもアメリカでも、検索すれば 色んな媒体に出てくるため、ジェームズ・レマーやノーラン監督が信じたのか、

それとも、原爆投下を思いとどまることなく「どこに落とすか」という議論自体がすでに人を狂わせているため、より人間の狂気を表現・揶揄するために、あえて採用したセリフなのかもしれません。

制作陣が「観客に感じてほしいこと」を丁寧に作っていることが解ります。
ここでも「制御できなかった人間の愚かさ」をちゃんと描いていると思いました。

新婚旅行でなくとも、本当に「訪れたことのある場所だから、破壊したくなかった」のかもしれませんが…それはスティムソンだけにしか分かりません。

【2024年4月 追記】日本公開後の日本での反応

【追記】映画「オッペンハイマー」は、2024年3月29日(金)封切られ 2024年4月現在、上映中です。

配給会社はビターズ・エンドです。

日本での反応を紹介します。

日本でのレビューを見ると「反戦・反核映画」という見方が多いという肌感覚です。(2024年4月9日現在)

昨年(2023年)から「広島や長崎の被害が描かれていないのではないか」と言われてきている本作品に、ノンフィクションディレクターの森達也監督(広島県出身)は 映画を観て、「しっかり描いている」と述べています。
(参考:シネマトゥデイ 2024年4月6日 より)

森監督は、「間接話法」と「直接話法」というものがあり、ノーラン監督は「間接話法」で描いている、と解説しています。

そして、

ものすごい反戦・反核映画だと思いました。

と感想を述べています。

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