石破首相が、本日(2025年8月6日)の広島平和記念式典で、ある短歌を引用して読みました。
『太き骨は先生ならむ そのそばに 小さきあたまの骨 あつまれり』
石破さんは何故、この短歌を引用したのでしょうか?
それには、彼の強い想いがありました。
石破首相が引用した 短歌の意味は?
石破首相は、記念式典のスピーチの終わりに
『太き骨は先生ならむ そのそばに 小さきあたまの骨 あつまれり』
という短歌を、繰り返し2回、読みました。
ですから、現代語に訳しますと
『太い骨は、先生なのでしょう 生徒さんらしき 小さな頭の骨が その傍に集まっていました』
という意味になります。
原爆の熱線の中で
先生は、子どもたちをかばって。
子どもたちは、怖くて、先生のもとに集まって。
原爆の恐ろしさ、無念さ、悲しみが、この歌には込められています。
この歌の作者は、正田篠枝さん
これは、正田篠枝(しょうだ しのえ)さんの詠んだ短歌です。
正田さんは、34歳の時に、爆心地から1.5kmの距離にあった自宅で被爆しました。
戦後、正田さんは、自らの体験、そして知人の体験の 悲惨極まる情景を短歌に込め、この歌を含む『さんげ』という原爆歌集を出版します。
(1947年 正田さんが出版。印刷部数は100部とも、150部とも言われています。)
(1979年~1980年 『さんげ』が『昭和萬葉集』(講談社刊)に収録されました。)
(1983年 正田さんを支えた親友である月尾菅子さんが復刻版を発行します。印刷部数は500部。)
なぜ、石破さんは、この短歌を読んだのか?
石破総理が、この短歌を読んだ理由は、「戦争がいかに悲惨なものであるか、辛いものであるか」を伝えるため、
そして「記憶の継承」のためです。
石破さんは、記念式典後の記者会見で、こう述べました。
(石破さん)「本日の感想と言いますか、感想という言葉は軽くていけないのですが……それは最後に引用いたしました、あの歌に全て尽くされていると私は思っております」
(引用元:日テレNEWS LIVE)(12:09頃~)

石破さんは、「あの歌…に、全て」というふうに、あの歌、という言葉に重きを置き、ゆっくり嚙み締めるように説明しています。
(石破さん)「『そのそばに 小さきあたまの骨 あつまれり』というのは、その光景というものを想起しただけで本当にどれほど悲惨なことであり、どれほどの悲しい思い、辛い思いがそこにあったか、ということであります」
(引用元:日テレNEWS LIVE)(12:25頃~)
そう、石破首相が伝えたかったのは、この、戦争の悲惨さ、理不尽さでした。
筆者は恥ずかしながら、本日まで、この短歌を知りませんでした。
そして石破さんが、挨拶の中で この句を読んだ時、「この歌の意味は何かしら?」と、すぐに調べました。
筆者同様、古語のために、聞いてすぐに意味を感じ取ることが出来なかった方も、いらっしゃったと思います。
そうしたら、皆さん、この歌の意味や背景を調べますよね。
石破さんは、そのために この歌を選び、私たちに、世界に、戦争と原爆の残酷さを伝えたのでしょう。
そのために、2回、読んでくれたのだと思います。
そして、大切な記憶の継承。
(石破さん)「時間とともに記憶が風化するのは、それは避け難いことでございますが、そうであるだけに、能動的にその記憶というものを、継承する努力というものは、さらに深めていかねばならない、強めていかねばならないと、このように考えておるところでございます。」
(引用元:日テレNEWS LIVE)(12:44頃~)
石破さんは、田中角栄元首相の、ある言葉を大切にしているんですよね。
「戦争に行ったやつが、中心にいるうちは、日本は安全だ。戦争を知らないやつが、日本の中核になったときが、怖いなあ」という、(結構 色んな人が引用する)田中角栄さんの有名な言葉です。
そしてまさに現在、「核武装が安上がり」という、とんでもないことを言い出す人たちが、現実に参議院議員になってしまう、ということが起きてしまいました(2025年7月の参院選)。
戦争の悲惨、原爆の悲惨を知らない、学ぼうとしない人たちが「戦前」を作ろうと、ヘイトをばらまき、当選してしまった。まさに、角栄さんが懸念されていたことが起きてしまった─。
その危機感を、石破さんも、私たち市民も、特に感じている夏でした。
「戦争の記憶」をいかに 短い時間で、言葉に込められるか、それが、あの短歌だったのだと思います。
原爆犠牲者国民学校教師と子どもの碑 台座裏面に刻まれた短歌
(出典:ヒロシマ遺文)
林芳正官房長官も、会見で
(林官房長官)「石破総理は被曝80年が経過し、実際に戦争や被曝を経験された方も減る中にあり、戦争の悲惨さ、原子爆弾の被害の過酷さ。これを決して風化させることなく、記憶として継承していかなければならない。そういった強い思いをあいさつに込められた」
(引用元:J CASTニュース 2025.8.6 )
と、述べています。
式典後の 石破さんの記者会見はこちらです↓
平和記念式典での、石破さんの挨拶全文は、こちら↓
石破さんは、この歌を2度、繰り返した ─歌の主人公は誰か─
石破さんは、正田篠枝さんの、この短歌を2度、繰り返し、かみしめるように読みました。
この歌の登場人物は、学校の先生と、低学年の生徒さんたちです。
当時、中学年・高学年の生徒さんは疎開していました。
そしてご存知の通り 男性は徴兵されていましたから、学校現場の先生は、ほとんどが女性でありました。
(この短歌が銘文として刻まれる「原爆犠牲国民学校教師と子どもの碑」のブロンズ像は、自らも被爆した女性教師が、ぐったりした教え子を抱え、悲嘆にくれている女性教師です。)
戦争の犠牲者の多くが、一般市民であり、そして、それが女性と幼い子どもたちである、ということ。
この想いは、式典後の会見などでは語られませんでしたが、私は、石破さんが歌に込めた大切なメッセージであると思います。
原爆犠牲国民学校教師と子どもの碑
(出典:広島平和記念資料館)
『さんげ』は、どこで買える?(どこで読める?)
正田篠枝さんの歌集『さんげ』は、現在、どこで読めるのでしょうか?また、購入は、できるのでしょうか。
古書店・オンラインマーケットで探す
『さんげ』は、現在、中古で出品されています。
筆者が調べたところ、楽天市場で 3,000円代~10,000円代で出品されていました(楽天市場にて 2025年8月6日時点の価格です)。
他のオンライン古書店やマーケットでもぜひ、検索してみて下さい。
図書館でも閲覧可能です
また、『さんげ』はじめ 正田篠枝さんの著書が所蔵されている図書館もあります。
お近くの図書館で検索してみて下さい。
国立国会図書館にも、『さんげ』が所蔵されています。
また、国立国会図書館の資料を、他の図書館を通じて借りることができる「図書館間貸出制度」もあります。
(※この制度は、お近くの図書館が、国立国会図書館の貸出制度に加入している場合のみ利用できます。)



また、国立国会図書館のサイト内にも、『さんげ』を所蔵する全国の図書館が掲載されています。
広島平和記念資料館には、コピーが置いてあります
『さんげ』の短歌は、平和記念資料館でも読めます。
情報資料室にコピーが置いてあり、自由に閲覧することができます。
【追記】この歌の、もうひとつの意味
実は、この歌の中にある「太き骨」という句は「大き骨」であり、「小さきあたまの骨」は「小さきあまたの骨」である、という説もあります。
『不死鳥』には、「大き骨は」「あまたの骨」と記載されていたことから、元々は
『大き骨は先生ならむ そのそばに 小さきあまたの骨 あつまれり』
が初出の歌であった、という説です。
あまたには「数多く」という意味があります
現代語に訳しますと、こうなります。
『大きい骨は、先生なのでしょう 生徒さんらしき 小さな 数多くの骨が その傍に集まっていました』
どちらの歌であったとしても、「あつまれり」だけで、多くの生徒さんが…という情景が浮かび、悲しみにたえません。
ですが「あまた」という句により、惨状が、悲しみが、より伝わってくるように、感じるのです。
コメント