韓国の憲法裁判所は、2025年4月4日、ユンソニョル(윤석열)前大統領の罷免を言い渡しました。
ユン前大統領の弾劾に賛成する市民と、ユン氏の支持層の間には 分断がある、とも言われてきましたが、
罷免を受けて、実際の市民、メディアの反応・受け止めは、どうだったのでしょうか?
また、一部YouTubeなどで「罷免はイデオロギーによるもの」といった発信がありましたが、実際には どうだったのでしょう。罷免の理由(憲法裁判所の決定文)、そして実際の韓国市民の視点からの受け止めについて、お伝えしていきたいと思います。

自分は「保守」、あるいは「リベラル」と、自認していらっしゃる方も
よろしければご一読いただき、ご意見を頂ければ幸いです。
(ちなみに、筆者はどこかに属しているものではありません。)
(“韓国と日本の関係”を心配している日本の方もいらっしゃるようですので、それについても触れています。)
裁判所の決定ー憲法裁判所の宣告内容について
まずは、裁判所の決定を見ていこうと思います。



宣告内容を、すでにご存知の方は、この記事の目次から、読みたい項目へジャンプできます。
もしくは、ここから、次の項目へジャンプできます。
[전문] 대통령 윤석열을 파면한다
— 한겨레 (@hanitweet) April 4, 2025
지금부터 2024헌나8 대통령 윤석열 탄핵사건에 대한 선고를 시작하겠습니다.
먼저, 적법요건에 관하여 살펴보겠습니다.
➀ 이 사건 계엄 선포가 사법심사의 대상이 되는지에 관하여 보겠습니다.
고위공직자의 헌법 및 법률 위반으로부터 헌법질서를 수호하고자…
宣告動画を当日、日本語で同時通訳してくださったYouTubeチャンネルもありますので、日本語で聴きたい方は、こちらをご覧ください。
それでは、今一度、罷免の決定文(要点)を 振り返っておきます。
「憲法違反」が認められたのは、大きくは 7項目です。細かい項目では、24個にのぼります。
憲法裁判所が違憲を認めた 主な項目
- 非常戒厳宣言の実体的要件違反
- 非常戒厳宣言の手続き的要件違反
- 国軍統帥義務違反 および 国軍の政治的中立性違反
- 国会への軍事投入
- 布告令関連違反事項
- 中央選挙管理委員会に対する押収・捜索
- 法曹に対する位置確認の試み(司法権の独立を侵害)
①非常戒厳宣布は違憲
非常戒厳宣布の実体的要件違反にあたります。(憲法第77条第1項、戒厳法第2条第2項)
憲法・戒厳法では、非常戒厳宣言の実体的要件の一つは「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態で、敵と交戦状態にあるか、社会秩序が極度に撹乱され、行政および司法機能の遂行が著しく困難な状況が、現実的に発生しなければならない」と定められています。
一方、被請求人(ユン前大統領のこと)の主張は、「野党が多数議席を占めた国会の異例の弾劾訴追推進」「一方的な立法権行使および予算削減の試み」により、「重大な危機状況が発生した」というもの。
これは当然、要件である「戦時・事変またはこれに準じる非常事態」には、あたりません。
なおかつ、野党の行動は、法律の範囲内でした。
【ユン氏の主張する「異例の弾劾訴追推進」という言い分について】
被請求人(ユン氏)の就任後、この事件の戒厳宣言前まで、国会は行政安全部長官、検事、放送通信委員会委員長、監査院長などに対して計22件の弾劾訴追案を発議した。
しかし、この事件の戒厳宣言当時は、検事1人および放送通信委員会委員長に対する弾劾審判手続きだけが進行中だった。



一方で、憲法裁は、野党の行動が法律の範囲内ではあるものの、
「国会が弾劾訴追事由の違憲·違法性について熟考しないまま、法違反の疑惑のみに基づき、弾劾審判制度を政府に対する政治的圧迫手段として利用したという懸念を生んでいます。」と、きちんと野党に対しても、指摘をしています。
【ユン氏の主張する「一方的な立法権行使および予算削減の試み」という言い分について】
被請求人が、野党が一方的に通過させ問題があると主張する法律案は、被請求人が再議を要求したり公布を保留し、その効力が発生していない状態だった。
また、戒厳令宣布理由の1つとして、ユン氏は「不正選挙疑惑の解消」も主張しましたが、2024年に実施された選挙前には、選挙管理委員会が、開票過程に検票制度を導入するなどの対策を講じており、憲法裁がこれも指摘しています。
以下、決定文の抜粋です。
たとえ、何らかの政治的理由があったとしても、「非常戒厳」は、あまりにも逸脱しており、憲法違反であることは、言うまでもありません。
②非常戒厳宣言の手続きも違憲
非常戒厳宣言の手続き的要件違反にも、あたります。
戒厳そのものも違反行為だが、その手続きも憲法違反だったということです。
- 国務会議の審議を経ずに、戒厳を宣言した。(憲法第89条第5号、戒厳法第2条第5項、第5条第1項)
- 戒厳宣言文書に国務総理と関係国務委員が部署しなかった。(憲法第82条)
- 戒厳を宣布するとき、施行日時、施行地域、戒厳司令官等を公告しなかった。(戒厳法第3条)
- 戒厳を宣言した後、直ちに国会に通告しなかった。(憲法第77条第4項、戒厳法第4条第1項)
(非常戒厳宣言に必要であるはずの)これらの正式な手続きを経ていなかった、ということです。
③国軍統帥義務違反 および 国軍の政治的中立性違反
国会に軍隊を投入したことは、国軍統帥義務違反、国軍の政治的中立性違反にあたります。(憲法第5条第2項、第74条第1項)
- 被請求人(ユン前大統領)は国防部長官に国会に軍隊を投入するよう指示
- 国会の戒厳解除要求権侵害(憲法第77条第5項)
- 国会の機能を十分に実現できないようにし、議会制民主主義と権力分立(三権分立)原則に違反
- 必要に応じて逮捕する目的で、各政党代表等に対する位置確認指示に関与することにより、国会議員の審議・表決権及び不逮捕特権等を侵害
兵士たちはヘリなどを利用して国会の境内に進入し、一部は窓ガラスを割って本館の内部に入ったりしました。
12月3日の夜、緊迫した国会の周りの様子を投稿してくれる人々のXを追いながら、(日本から)この様子を見てきましたが…本当に怖かったですよね。
以下、憲法裁の決定文の抜粋です。
④国会封鎖・軍事侵入
憲法には、国会による弾劾解除決議案の可決によって、非常戒厳を解除できると明記されています。
しかし、ユン氏は軍隊を送り、これを妨害しました。
以下、憲法裁の決定文の抜粋です。
12月3日の夜、イ・ジェミョン(「共に民主党」代表)氏が、自身の「イ・ジェミョンTV」ライブで国会議員と市民に呼びかけ、国会の塀を乗り越えたことも、(Xなどで)リアルタイムで観ていた方も多いと思います。
筆者も、日本から「とにかく市民も国会議員も、皆さん無事でいてほしい」と、泣きそうになりながら見守りました。
이재명 당대표 긴급 라이브- 국회가 비상계엄 해제 의결을 해야 하는데 군대를 동원해서 국회의원 체포할 가능성이 매우 높습니다.
— Linzy (@poiuuiop000999) December 3, 2024
국회로 와 주십시오. 국민 여러분께서 이 나라를 지켜주셔야 합니다. 저희도 목숨 바쳐 이 나라 민주주의 꼭 지켜내겠습니다.
지금 국회로 가는 길 입니다. pic.twitter.com/DCL23xvCXS
国会関係者と軍人がにらみ合いになる場面が、実際にありました。
12月4日午前0時35分頃、戒厳軍は、国会本館2階「国民の力」政策委議長室につながったガラス窓を破って強制進入しました。
本館に進入した戒厳軍が本会議場に向かうのを防ぐため、国会補佐官たちが消火器をまき、その煙が廊下にたちこめたといいます。
(参考:朝鮮日報 2024.12.8 )
軍隊を文民統制し統帥する立場であるはずの「大統領」が、自国民を守るはずの軍隊を、(国会に出動させたのは、精鋭部隊)よりにもよって。国会議員に
⑤戒厳布告令関連の違反
12月3日、パク・アンス陸軍参謀総長が「2024年12月3日23時から、大韓民国全域に次の事項を布告する」と、戒厳布告令を発表しています。
これらは、憲法で定めた戒厳の範囲を、あまりにも逸脱していました。
【布告令に関する違反事項】
- 国会と地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁止する
- 国会については、前の国会に対する軍警投入と同じ違反
- 地方自治の本質的内容を侵害している。(憲法第117条、第118条)
- 政党の自由侵害(憲法第8条)
- 一般国民の政治的基本権、言論・出版・集会・結社の自由などを包括的・全面的に制限し、その行事を犯罪行為と規定する(国民主権主義と自由民主的基本秩序違反)
- 戒厳法が規定しない憲法上の権利または自由を制限する(憲法第77条第1項、戒厳法第9条第1項)
- 医療現場を離れたすべての医療従事者が48時間以内に本業に復帰しない場合、処分するという(職業の自由侵害)
- 布告令を通じて広範な行為を禁止し、令状なしで逮捕・拘禁・押収・捜索ができるようにする(令状主義違反)
- 中央選挙管理委員会に対する押収・捜索
- 令状なく押収・捜索の強制処分を指示する(令状主義違反)
- 憲法と法律が予定していない方法で軍隊を動員し、押収・捜索をする(選挙管理委員会の独立を侵害)
- 法曹に対する位置確認の試み(司法権の独立を侵害)
もしも、12月4日未明に戒厳令が解除されていなかったら…と思うと、ゾッとします。
これらを、どこまで実行しようとしていたのでしょうか。
⑥中央選挙管理委員会に対する押収・捜査行為について
【中央選挙管理委員会に対する押収・捜査行為】
被請求人(ユン氏)は、2024年12月3日、軍隊を、中央選挙管理委員会、世論調査機関 花などに投入し、中央選管委庁舎などを占拠した後、党職員の携帯電話を押収し、サーバーを撮影させ、12月4日に出勤する職員に対する逮捕及び拘留計画を立てた。
これは、憲法第77条第3項、戒厳法第9条第1項、令状主義、選管委の独立性等を違反 又は侵害したものである。
- 令状なく押収・捜索の強制処分を指示する(令状主義違反)
- 憲法と法律が予定していない方法で軍隊を動員した押収・捜索をする(選挙管理委員会の独立を侵害)
憲法裁は、選挙管理委員会の独立性を侵害したことについて、民主政治的機能に脅威を加える行為と述べています。
選管委の選挙管理事務に対する不当な干渉であり、選挙が持つ本来の民主政治的機能に脅威を加える行為であり、選管委の独立性を徹底的に保障しようとする我が憲法の趣旨に反するものである。
⑦法曹に対する位置確認の試み(司法権の独立を侵害)
【司法権の独立を侵害したことについて】
この事件について、認定された事実は、次の通りです。
- 被請求人(ユン氏)がこの事件戒厳宣布直後、国情院1次長ホン・ジャンウォンに電話して国軍防諜司令部を手伝うように指示した
- 国軍防諜司令官ヨ・インヒョンは国防部長官キム・ヨンヒョンからこの事件名簿の人たちに対し、位置確認など身元を把握するよう指示を受け、ジョ・ジホに位置確認を要請した
- ホン・ジャンウォンがヨン・インヒョンに電話し、被請求人の電話を受けたところ、ヨン・インヒョンがこの事件名簿とほぼ一致する名簿を呼びだし、位置確認を要請した
- この事件名簿には、元大法院(最高裁判所)長のキム・ミョンス、元大法院判事のクォン・スンイルも含まれていた
この事件名簿の人たちに対する位置確認は、実際には行われなかったとされています(要請された事実は認定されている)。
それは、位置確認に及ぶ前に 戒厳令が解除されたため、大事に至らなかったものだと考えます。
憲法裁は「これらの事実に照らすと、被請求人がこの事件名簿の人たちに対して逮捕まですることを指示したか否かは不明であるとしても、必要に応じて逮捕する目的で行われた上記人たちに対する位置確認の試みが、被請求人の意思と無関係に行われたとは考えにくい」としています。
司法権の独立は、権力分離の原則を中枢的な内容の一つとしている自由民主主義体制の特徴的な指標であり、法治主義の一要素を形成すると同時に、憲法第27条で保障する国民の裁判請求権が正しく行使されるようにするための側面でその意義がある(憲法裁2016. 9. 29. 2015憲法バ331参照)。
司法部が行政府及び立法府を牽制する上でも重要な役割を果たすため、すべての国家機関には司法権の独立を守り、尊重する義務があり、過度の干渉と統制などでこれを侵害してはならない。
憲法裁は、
- 位置確認指示は、現職の法官たちに、逮捕の対象になる可能性があるという圧力を与え、信念ある裁判業務の遂行に重大な脅威となる可能性がある(憲法裁1992年11月12日91憲法2)
- 個々の裁判官の身分保障及び裁判上の独立に脅威を与える行為は、司法権独立の制度的基盤まで崩壊させる可能性がある。
と、極めて重く見ています。
注目すべき 憲法裁の決定文要旨



次に、特筆すべき決定文を、いくつかご紹介していきます。
憲法裁の決定文①
「結論」の最初に「大韓民国は民主共和国である」
憲法裁判所は、ユンソニョル前大統領の弾劾審判決定文の結論部分の最初の行に「大韓民国は民主共和国である」という憲法第1号第1項を明記しています。
裁判所から 全国民へ向けて、決して分裂せず、皆で民主主義を守る、という、韓国社会が進むべき道を提示したものといえるでしょう。
そのうえで、ユン前大統領の、民主主義を無視した行動を諫めました。
헌재는 먼저 “민주주의는, 개인의 자율적 이성을 신뢰하고 모든 정치적 견해들이 각각 상대적 진리성과 합리성을 지닌다고 전제하는 다원적 세계관에 입각한 것으로서, 대등한 동료시민들 간의 존중과 박애에 기초한 자율적이고 협력적인 공적 의사결정을 본질로 한다”는 과거 헌재 결정문을 인용했다.
(引用元:연합 뉴스 2025.4.4 )
【和訳】憲法裁判所はまず「民主主義は、個人の自律的理性を信頼し、すべての政治的見解がそれぞれ相対的真理性と合理性を持つと前提する多元的世界観に立脚したもので、対等な仲間市民間の尊重と博愛に基づく自律的で協力的な公的意思決定を本質とする」という過去の憲法裁の決定文を引用した。
憲法裁の決定文②
「野党に対しても」諫める文章が入っていることに注目
ユン前大統領へ、「非常戒厳」は違憲であり、民主主義に反することを言ったうえで、野党へも、指摘をする文章が入っていたことに、着目したいと思います。
野党の行った追及も、国会で 弾劾訴追案を出したことも、法律違反ではないものの、与野党協力し合うことは大切であったと、諌めています。
그러면서 “피청구인과 국회의 대립은 일방적 책임에 속한다고 보기 어렵고, 민주주의 원리에 따라 조율되고 해소돼야 할 정치의 문제”라면서 윤 전 대통령과 정부뿐만 아니라 야당도 서로의 정치적 견해를 존중하지 않아 분열과 혼란을 겪었다고 지적했다.
(引用元:연합 뉴스 2025.4.4 )
【和訳】その上で、「被請求人と国会の対立は一方的な責任に属すると見ることは難しく、民主主義の原則に基づいて調整され、解消されるべき政治の問題」とし、「ユン元大統領と政府だけでなく、野党もお互いの政治的見解を尊重せず、分裂と混乱を経験した」と指摘した。
そして、与野党の対立や政治を、この憲法裁判所に持ち込む事態がゆゆしきことであり、いかなる政局であろうと、憲法に従って、与野党共に 乗り越えていくべきだ、という趣旨です。
また、憲法裁は、「国会は少数意見を尊重し、政府との関係で寛容と自制を前提に対話と妥協を通じて結論を導き出すよう努力すべきでした。」「被請求人(ユン氏)も国民の代表である国会をガバナンスの対象として尊重すべきでした。」と、双方に「どうしたら良かったのか」方法を示しています。
「どうしたら良かったのか」は、これからの国会、という未来に向けての提示でもあったと思います。
双方に向けて、というのは決して、与野党は「どっちもどっち」という意味ではありません。
憲法裁が野党への指摘も入れたのは、決して「どっちもどっち論」ではなく、政治家、そして、国民にも、協力し合い難局を乗り越えることの大切さを呼びかけたものでしょう。
ここで分裂してはならない、韓国の民主主義を守り、国民の統合を守りたい、と、裁判官の方々が時間をかけて考えたものと思われます。
この文章は、全ての国民に届く呼びかけでもありました。
憲法裁の決定文③
「市民の抵抗と、軍警の消極的な任務遂行のおかげ」
ユン前大統領は「この事件の戒厳が短時間内に解除され、これによる被害が発生しなかった」「本気ではなかった。(野党による政権運営の妨害を、世の中に知らしめたかっただけだった)」という主張をしていました。
憲法裁判所は、たとえ戒厳令が6時間で解除されようが、「戒厳令」を発令した時点で「この事件の弾劾事由はすでに発生している」ため、審判にかけられるべき事由であるとしました。
「戒厳令」発令の時点から、国民を混乱に陥れる事態は発生しているのであり、「短時間で解除されたか否か」は関係ありません。
そして、憲法裁判官の宣告要旨には、
- 「国のために奉仕してきた軍人たちが一般市民たちと対峙するようにした」
- 「国会が迅速に非常戒厳解除要求決議をすることができたのは、市民の抵抗と 軍警の消極的な任務遂行のおかげだった」
という文が入っています。
국회가 신속하게 비상계엄 해제 요구 결의를 할 수 있었던 것은 시민들의 저항과 군경의 소극적인 임무 수행 덕분이었다
(引用元:憲法裁判所 2025.4.4 )
【和訳】国会が迅速に緊急戒め解除要求決議をすることができたのは、市民の抵抗と軍警の消極的な任務遂行のおかげだった。
憲法裁は、
- 国民すべての大統領として、自分を支持する国民を超越して社会共同体を統合させなければならない責務に違反した
- 国民の信任を裏切ったもので、憲法守護の観点から容認できない重大な法違反行為
と判定しました。
憲法裁が、自分を支持する人々も、野党支持、「中道」と呼ばれる人々も、皆 大切な国民であり、国民全体のことを考え政治をしていくのが大統領の責務だ、と、大統領を諫めた場面ですね。
同時に、(4月4日まで 弾劾反対・賛成に分裂していた)全国民の心にも、響く言葉であったと思います。
「全員一致なんて、怪しいのではないか」という認識について
裁判官は8名。全員一致で「罷免」です。
この決定は「完全試合」とも言われています。
これに対して、日本の一部の人々からは「全員一致なんて、有り得ないだろう」といった いわゆる陰謀論と、憶測も出ていました。
しかしながら、裁判官 8名中3名は、いわゆる「保守」に近いといわれる人です。
ユン前大統領弾劾審判事件の主審裁判官として、罷免決定文の草案を作成したのは、チョン・ヒョンシク憲法裁判官。今回の弾劾審判を審理した8人の裁判官の中で唯一、ユン前大統領が指名・任命した人です。(ちなみに、「保守寄り」と言われている方です。)
また、決定文を読み上げた、憲法裁判所長 権限代行であるムン・ヒョンベ裁判長は、ムンジェイン元大統領指名で、「進歩寄り」と言われている方。
そういった、世間の「保守寄り」「進歩寄り」といったフィルター、ものの見方を一蹴し、裁判官8名の方々が憲法に従って出した判決でした。
⭕️ 탄핵 사유별 헌재 판단 ⭕️
— JUNY🕯🎗 (@mjdljmchoigo) April 4, 2025
❗️재판관 8명 전원 일치 파면❗️ pic.twitter.com/VxH2CQDyBo
また、(ユン前大統領が指名した)チョン・ヒョンシク裁判官ですが、弁論の過程でも、ユン氏側の主張に対し 追及するのを躊躇しませんでした。
(参考:The JoongAng 2025.4.4 )
憲法裁の決定文を読んで分かるように、罷免は順当な手続きによって判断され、認容されたものです。
さらに、国民をひとつにできるように、非常に考えて、時間をかけて良く練られた文章でした。
公開された決定文は、114ページにのぼります。
「全員一致なんて…」という憶測は、今回の裁判官の方々にも、韓国の憲法、民主主義に対しても、失礼なことです。
XやYouTube上での「憶測」を見かけた時は、最低限、実際に憲法裁の決定文を読んでから判断するのが良いでしょう。
【追記】韓国でも、「8-0」にならないかも…と不安になる声もあった
韓国でも、当初は わりとすぐに結論が出る(罷免される)だろうと多くの人々が予想していました。
しかし、ここまで時間がかかったことから だんだんと、もしかしたら「6対2」や、最悪の場合「5対3」になるのではないか…という不安の声が聞かれるようになりました。
しかし、ふたを開けてみれば、憲法が、ちゃんと生きていた!というわけです。
「(8-0ではないと)疑ったことが、恥ずかしい」とおっしゃる方もいましたが、4月まで もつれ込んだことから、どうしても不安になってしまうことと、思います。
市民の反応は、どうだったのか?
罷免を受けての、ソウル駅の様子は?
また、ジャーナリストで『コリア・フォーカス』編集長のソテギョ(서태교)さんは、実際に当日(2025年4月4日)韓国ソウル駅で取材した際の温度感について、こう話します。
ソテギョさんはこの日、罷免賛成・反対の集会ではなく、敢えて集会に参加しない(様々な考えを持つ)市民が行きかっているソウル駅での反応を取材しました。
ソウル駅の待合室にTVがあるので、そこにいた人々が 罷免宣告の瞬間を見ることができたといいます。
(ソテギョさん)
(罷免宣告の瞬間は)思ったよりも静かでした。
老若男女いろんな方々がいたので、心の中で喜んだ人も、周りの人に配慮しながらこっそり喜んでいたという形で、声をあげて喜ぶ人も泣く人もいなかった。
比較的静かな状況でした。
インタビューしてみたところ
「사필귀정(あるべきものが、あるべきところに戻ってきた)」という韓国のことわざで表現した方が2人もいて、ようやくユンソニョル(前)大統領の誤った非常戒厳というのが正されて 憲法政治が回復された、という受け止めが多かった。
(荻上チキSession 2025.4.7 より)
「사필귀정(事必帰正)(サピルグィジョン)」とは、ソテギョさんのおっしゃるように 「すべての事柄は、必ず正しい方向に帰る」、つまり、たとえ正しくない事が横行したとしても、最終的には正しい道に戻る、ということわざです。
韓国の世論調査では 8割が「受け入れる」
韓国の世論調査では、8割の人々が この憲法裁の決定を「受け入れる」という結果が出ています。
(浅羽祐樹さん)
憲法裁の決定が出て、今日(4月7日)の世論調査では「結果を承服する」が 8割を超えている。
弾劾反対派や「国民の力」支持している方も、それぐらい。
(荻上チキSession 2025.4.7 より)
韓国に住んで研究をされてきた政治学者、浅羽祐樹さんは、ずっと、憲法裁判所前で行われてきた 両方の集会(ユン大統領の罷免に賛成・反対)をウォッチしてきたといいます。
世論調査もつぶさにチェック、両方の集会にも、実際に足を運んでいます。
(浅羽祐樹さん)
「憲法裁判所前」(の、これまでの世論調査)では、数値が五分五分、ときに弾劾反対の側の「承服できない」というのが上回ったりした時もあったんですけど、
一旦、憲法裁の、特に「全員一致の決定」、というので、これはもう、憲法問題の終局的 最終解決が出たので、承服せざるを得ないと。
ユン氏を拘束する令状を出した裁判所に、暴徒が侵入するという事件が1月にありましたけれども、今回そういう事態は、幸いなことに起きなかった。
やはり韓国の場合、憲法をめぐる危機があったときに、憲法裁判所、今回特に全員一致でというところが鍵なんですけど、決定を出すと、全員が受け入れると(いう素地が出来ている)。
承服しない唯一の人物が、ユンソニョル前大統領ただ一人。
(荻上チキSession 2025.4.7 より)
1月の、地方裁判所への暴徒侵入事件とは
この時、ユン前大統領がこのコメントを出したことは、良かったと思います(弁護団から促しもあったかもしれませんが…)。
罷免を受けて、支持派の暴徒化が避けられたのは、「憲法裁判所が全会一致で出した決定」であることはもちろんのこと、このコメントを受け、(暴力にうったえる行為を)思いとどまってくれたのかもしれません。
1月19日の事件翌日、朝鮮日報は「暴徒化事件」について、社説でこう論じています。
いくら判事の決定が不服だとしても、憲法と法律が定めた手続きに従って抗議し、不服であることを示さなければならない。
裁判所と判事が身の危険を感じる状況を作ることは、公正な裁判を受けるのを困難にし、結局は国民全体に大きな被害を及ぼす行為だ。
(引用元:朝鮮日報 2025.1.20 )
「保守」か「リベラル」かではない
前項でご紹介しました 政治学者の浅羽祐樹さんご自身も、これは当然の結果、憲法が生きていると、コメントしています(荻上チキSession 2025.4.7 より)。
ここまで読んで、「浅羽さんが “左派”だからじゃない?」とおっしゃる方もいるかもしれません。
しかし、浅羽さんご自身が、ご自身の政治的な分類について「自己認識では保守だ」という風におっしゃっていたといいます。
そのうえで浅羽さんは「自分のような“保守”が、ポリタスTVのようなメディアで、“リベラル”の(とカテゴライズされる)方々と対話することが大事だ」とも。(ポリタスTV 2025.4.4 59:35頃)
浅羽さんは、「保守こそ、憲法を守る(人たちなんだよね)。」とも仰っています。
(浅羽祐樹さん)
保守こそ、憲政秩序を守るわけですよね。
保守とは「たもつ、まもる」と書くじゃないですか。
何を守るかというと、既存秩序。既存秩序っていうのは、今の憲政秩序なわけですよね。
( 国際政治CH 2025.4.5 18:50頃~ )
そして、ユンソニョル氏がやった「非常戒厳」というのは、違憲なんだ、そこに右も左も関係ない、ということ。
“党派的”な分断をしている場合ではなく、どう乗り越えていくか。(ポリタスTVライブ配信中のコメント欄について)そういったコメント欄であってほしい、と、津田大介さんはMCとしてコメントされています。(ポリタスTV 2025.4.4 1:00頃)



ソテギョさんも、社会の平等などを考えるけれど、(「左や右」などのカテゴライズで)どこかに属しているというわけではない、といいます。
ちなみに、韓国では、「左派」といえば、「国民の力」だけではなく「民主党」も嫌いなのだとか。(ポリタスTV 2025.4.4 1:01頃~)
市民へのインタビュー①
「民主党が政権を握ったとしても、私たち(市民)が監視し続けなければ」
4月4日の午前中、大統領官邸があるソウル龍山区漢南洞では、ユン大統領支持者と、弾劾に賛成する人々の集会が開かれていました。
BBCのインタビューに答えた集会参加者の声です。こちらは、塾講師のイさん(弾劾に賛成)。
이 씨는 이번 일이 있기 전에도 자주 집회에 나갔다며
“만약 (조기 대선으로) 민주당이 정권을 잡는다고 하더라도, 이들도 우리가 계속 감시하지 않으면 안 된다”라며 “나라가 제대로 굴러가기 위해서는 힘들긴 하지만 시민들이 계속 감시하고 보고 있다는 걸 알려줘야 할 것”이라고 말했다.(引用元:BBC NEWS KOREA 2025.4.4 )
【和訳】イ氏は今回の事件が起きる前にも頻繁に集会に出かけたとし、
「もし(早期大統領選挙で)民主党が政権を握ったとしても、彼らも私たちが監視し続けなければならない」とし、「国が正しく運営されるためには、大変だが、市民がずっと監視して見ていることを知らせなければならない」と話した。
与党「国民の力」、野党「共に民主党」、どこの党が政権を取ったとしても、市民が政治を監視していかなければならない、というものです。
市民へのインタビュー②
弾劾反対派の人も「憲法裁の決定は認め、暴力的で違法な方法で対抗しない」
一方、ユン大統領の弾劾反対をうったえていた人へのインタビューで「憲法裁の決定は認め、暴力的で不法な方法で対抗しない」という声が聞かれました。
YouTube「라희 아빠(ラヒパパ)」を運営する男性は、ユン大統領の罷免について「暗澹たるものだ」としながらも、こう話します。
“화가 많이 나지만 이 상황을 인정해야 합니다. 애국시민들은 법을 지키는 사람들입니다…”
(引用元:BBC NEWS KOREA 2025.4.4 )
【和訳】「とても腹が立ちますが、この状況を認めなければなりません。愛国市民は法律を守る人たちです…」
そのうえで、「一部では、“このとんでもない判決に対抗して戦わなければならない”という主張があることはあります。 それがもし合法的な範疇で、暴力事態が起きない範囲であれば、一緒に動くつもりです。」と、インタビューで話していました。
ユン氏を指示している人でも、一貫して、憲法裁判所の決定なので、尊重しなければならないことを強調していました。
市民の反応まとめ
ここで留意したいのは、ユン氏を支持・不支持にかかわらず、「戒厳令」が憲法に反する行為であり、これはやってはならないことだったという認識です。
- ユン元大統領が起こした「戒厳令」は、ユン氏または 国民の力の支持・不支持に関係なく、「やってはならないことであった」という認識
- 罷免には反対だが、憲法裁判所の決定は、尊重する、という受け止め
韓国の保守紙でも、ユン前大統領の行動について痛烈に批判
韓国の保守系新聞の1つ『동아일보(東亜日報)』の社説では、ユン元大統領の一連の行動、コメントについて、痛烈に批判しています。
ユン前大統領は憲法裁の判決後、しばらく経ってから「支持してくれて応援してくれた皆さんに感謝する」「期待に応えられず申し訳ない」という短い声明を出しました。
東亜日報の社説を一部、引用します。
헌재 결정에 대한 승복 선언도, 불법 계엄에 대한 사과도 없이 지지자들을 향한 감사와 사과의 뜻을 표했다.
(引用元:동아일보 2025.4.4 23:27 )
【和訳】
憲法裁の決定に対する降伏宣言も、不法戒厳令に対する謝罪もなく、支持者に対する感謝と謝意を表した。
ユン氏から、極めて重大な混乱を巻き起こしたことに対する、国民全体への謝罪は、ありませんでした。



一方、与党「国民の力」は、「憲法裁の決定を謙虚に受け入れる」と、承諾意思を明らかにしています。
하지만 헌재의 파면 선고는 보수 성향의 재판관들까지 전원일치로 내린 결정이다.
‘국민 모두의 대통령으로서 자신을 지지하는 국민을 초월해 사회를 통합해야 할 책무 위반’은 파면 사유이기도 하다.(引用元:동아일보 2025.4.4 23:27 )
【和訳】
しかし、憲法裁判所の罷免宣告は、保守的な傾向の裁判官までが全会一致で下した決定だ。
「国民全員の大統領として、自分を支持する国民を超えて、社会を統合すべき責務違反」は罷免理由でもある。
また、「現職大統領として初めて逮捕され、釈放される弾劾事態の変曲点ごとに『一緒に最後まで戦う』と、拳を握りしめて振り回し、支持層だけを見て扇動した」とし、下記の通り、バッサリと指摘します。
대통령답지 않게 분열을 조장하는 언행은 그의 복귀를 반대하는 여론을 키웠을 것이다.
결국 대통령직을 잃고도 반성 없이 자기편만 챙기는 어리석은 고집이 안타까울 따름이다.(引用元:동아일보 2025.4.4 23:27 )
【和訳】
大統領らしくない分裂を助長する言動は、彼の復帰に反対する世論を高めただろう。
結局、大統領職を失っても反省することなく、自分のことだけを考える愚かな頑固さが残念でならない。
東亜日報は、このように憲法裁の決定に承諾の意思を示さず、国民の分断を招いてもなお、反省することもないユン氏の態度を、「愚かな固執」と表現しました。
韓国の聯合ニュースでは「民主共和国・民主主義」に焦点を当てる
以下は、聯合ニュース(れんごうニュース/연합 뉴스/ヨンハプニュース)が、ユン前大統領の罷免を受け報じた時の、トップニュースのタイトルです。
[尹파면] 헌재, 파면 결론 첫줄에 “대한민국은 민주공화국이다”
(引用元:연합 뉴스 2025.4.4 )
〈和訳〉…【ユン罷免】憲法裁判所の罷免結論の最初の行に「大韓民国は民主共和国です」
聯合ニュースは、(通常メディアが取り上げる)ユン前大統領に対する「罷免の決定文」の中で、特に憲法裁が「韓国国民の和合」を重要視した箇所を、クローズアップしています。
憲法裁が、決定文「結論」の導入部に入れた「大韓民国は民主共和国です」をタイトルに選び、決定文のいくつかのポイントを挙げ、「民主主義」に焦点を当てました。
アイキャッチ画像は、裁判所の裁判官の方々。
[尹파면] 헌재, 파면 결론 첫줄에 "대한민국은 민주공화국이다"https://t.co/Oahj1yshfr pic.twitter.com/Oj2fZQsIq5
— 연합뉴스 (@yonhaptweet) April 4, 2025
そして、トップの写真は、ユン氏の写真等ではなく、あえて景福宮(キョンボックン)の光化門(クァンファムン)と、その先の世宗(セジョン)通りの写真、人々の様子を掲載していました。
【「三一節(3·1절/삼일절/サミルチョル)」とは】
1919年3月1日は、日本の植民地支配からの独立運動が始まった日です。
「三・一運動(삼일운동)」といいます。
この独立運動は、全国に広がっていきましたが、日本の弾圧で、多くの犠牲者が出ました。
多くの家屋、学校、教会も、日本軍により、焼き払われました。
三一節(サミルチョル)は、三・一独立運動をたたえた祝日です。
DPRK(朝鮮民主主義人民共和国)では「三・一人民蜂起(3.1인민봉기)」と呼ばれています。
もう1枚、記事中の写真は、憲法裁決定文の1文のキャプチャでした(内容は下記の通り)。
記事内でも、この文章を引用し、
「政治の問題は、民主主義の原理によって調整され解消されるべき」という憲法裁の決定文や、
憲法裁が提示した 憲法と法律枠内で実行可能な案も取り上げました(対話と妥協、権力構造や制度改善説得、国民投票、政府の法律案提出、憲法改正案発議など)。
憲法裁の努力により、国民全体に届くよう良く練られ、民主主義と和合の重要さを丁寧に説明する、決定文。
これらを丁寧に拾った聯合ニュースもまた、裁判所の文言を借りて 市民に和合を呼びかける、その思いが伝わってきた良記事でした。
この記事の文章に、前述の「景福宮の光化門と世宗通り、それぞれに集った人々」の写真を選んだのは、「今日(4月4日)からは、分裂はやめて、協力し合って乗り越えよう」という聯合ニュースの、人々への希望の提示のように思えます。
軍は「今後 戒厳令があっても、従わない」と発表
韓国国防部(省)の報道官は、ユン氏の「罷免」が言い渡される前日(4月3日)の定例会見で、もし今後戒厳令があったとしても、命令に従わないことを発表しました。
韓国軍は「憲法裁判所がユン・ソギョル大統領弾劾審判を棄却または却下し、ユン大統領が職務復帰したとしても、“2次戒厳令宣布”の要求には応じない」という立場を明らかにした。
キム・ソンホ国防相職務代行(次官)は、(中略)「もし戒厳発令に関する要求があったとしても、国防部と合同参謀本部はこれを絶対に受け入れない」と語っている。
(引用元:wowKorea 2025.4.4 7:26 )
日本の市民の方の中で、「韓日関係」を心配されている方へ
日本の市民の方の中で、「韓日関係」を心配されている方へ
今回、まことしやかに「ユン元大統領は“親日”だった」「ユン元大統領が罷免されたら、“韓日関係”が悪化する」などという誤った情報が流布されていましたが、もちろん、政権が変わったことで「“韓日関係”が悪化」することは、ありません。
もうずっと何十年も前から、韓国の市民と日本の市民は、一緒にお仕事したり、子育てしたり、大好きなK-POPアーティストの推し活をしたりしてきていますよね。



筆者1人の経験だけでも、
1990年代にはすでに多くの韓国の親友がいましたし(ヨン様ブームよりも前です!)、職場でも、一緒にお仕事してきたりしました。
一緒に子育てしてきた親友が韓国に帰国した今(2025年)でも、親友同士です(当たり前ですが…)。
その間、韓国も日本も、たくさん政権交代してきました。
韓日の学生のフィールドワーク、日中韓の市民・教育者・歴史研究者のフォーラムなどの取り組みも行われてきました。
ドラマや音楽などのカルチャーは生活の一部となり、今現在も、推しの日本ライブを控えている日本のファンも、多いのではないでしょうか。
政権が変わろうと、私たちは、何も変わりません。
これまで通りです。



2017年には、パク・クネ(박근혜)元大統領が弾劾審判で罷免されていますが、もちろん、市民同士の交流に変化はありません。
なお、そんな市民の繋がりと、韓国・日本の政権交代とは関係ありませんが、日本の内閣総理大臣のコメントを掲載しておきます。
ユン前大統領の罷免を受けて、石破さんは、
いかなる政権になっても、今年は国交回復60周年という年でもございます。
日韓の協力というものは、安全保障面においてのみならず、我が国の独立と平和、あるいは地域の平和と安全にとって、極めて重要であると認識を致しております。
(ANN newsCH 2025.4.4 より)
と述べ、新政権との関係構築について、最重要課題のひとつ、としています。
石破さんの このコメントは、まずは評価できると思います。
また、石破総理は、ユン前大統領の罷免については「評価すべき立場にない」としました。
情報の取り方、メディアリテラシーについて
今回に限らず、日本では韓国の政権が代わる度に、“親日”・“反日”といった「誤ったロジック」で語られる現象が見られます。
そして必ず、それらに「“日韓関係”が悪化する」という誤情報が付随してきます。
今回は、個人のユーチューバーがこういった発信を行い、一部ではあるものの、影響を受ける人が出ていました。
しかし、それよりももっと大きな問題は、個人ではなく、日本の大手メディアが “親日”・“反日”ロジックを用いていることです(これも、一部のメディアではあるものの、複数社あり、目につきます)。
そういったメディアの勉強不足、ジャーナリズムの欠如は、読者・視聴者に影響を与えます。
言うまでもなく韓国の市民は、2024年12月3日から現在に至るまで(2025年4月現在)、民主主義社会、憲法を守るために行動し 議論してきたのであって、“親日”・“反日”という的外れな物差しは入り込む余地などありません。
以下に、良質な情報を取る方法として、いくつか提案があります。
- 韓国の情報については、韓国の新聞を読み比べることをおすすめします。
「素早く知りたいので、まとめサイトを見よう」という習慣がおありの方は、まずは、ゆっくりでも良いので、本質をキャッチしてみてください。
そのうえで、(弊サイトのような)まとめサイトをご利用ください。
まとめサイトも複数チェックして頂ければと思います。
多面的な視点から、あくまでも「どんな見解や分析があるのか」の「観察」材料としてご利用頂ければ幸いです。 - もちろん、日本のメディア全てが勉強不足、というわけではありません。良質なメディアもあります。
専門家が出演し、解説しているメディアを選びましょう。
信頼できるメディアから、情報を得ること、そして必ず自分で考えてみることが重要です。
もし日本のメディアを読んで 疑問点が出たら、実際「韓国の肌感はどうか」というのを見てみましょう。
ここでも韓国語で検索してみて、信頼性のある新聞記事を複数読んでみる・専門家の発信を読んでみることも、おすすめです。 - 「上位表示」記事が、必ずしも信頼性のあるメディア、とは限りません。
もちろん、Googleは 常にアップデートし努力していますが、ユーザーが検索するキーワードによるからです。
キーワード自体の概念に問題があり、それが「一部ユーザーを引き付けるワード」の場合、どうしても上位に表示されてしまいます。(どうしても閲覧する場合は「社会学的な研究材料として」俯瞰的に捉えてくださいますよう、お願いします。) - そしてメディアだって人間、たまには間違うこともあります。
信頼できるメディアでも、人権にてらして間違えていたら、ご意見窓口から指摘することも大切なことです。
(悪口や誹謗中傷は、もちろんNGです。論理的な見解をまとめ、意図をくみ取ってもらえることを意識した文章で送りましょう。)
メディアご紹介
韓国の主要な新聞社



よく「リベラル紙/保守紙」などとカテゴライズされることがありますが、上記では両方ご紹介しています。
読み比べて、自分で考えることが大切ですよね。
日本のメディア、及び日本語で読めるメディア
・デモクラシータイムス(日本のYouTubeメディア)様々なニュースを配信しています。
『ソテギョ(徐台教)の韓国通信』では、2024年12月4日深夜に、戒厳令の日の様子を、韓国国会前から緊急生配信。
2025年4月8日は、ユン前大統領罷免について、内容や経緯を緊急解説。
・荻上チキSession(日本のラジオ番組/TBSラジオ)様々なニュース・トピックを取り扱っています。
各トピックについての専門家がゲストで登場し、問題を深掘りしていきます。
radikoや、らくらじ2 など、ラジオ聴取アプリでお聴きください。
【#radikoタイムフリー】
— 荻上チキ・Session (@Session_1530) April 7, 2025
2025年4月7日(月)放送分
特集「ユン大統領の罷免決定で、大統領選実施へ。韓国の政治・社会はどこに向かうのか? 」
出演:同志社大学の浅羽祐樹教授、ソウル在住ジャーナリストで『コリア・フォーカス』編集長の徐台教さんhttps://t.co/SlrFQ2pSrH #ss954 #radiko pic.twitter.com/0MRbWP4GLh
・国際政治ch(日本のYouTubeメディア)国際政治に関する様々なトピックを、複数の専門家の討論により深掘りしているチャンネルです(動画により、無料のものと有料のものがあります。無料動画も充分、見ごたえがありますよ)。
2025年4月5日に配信された、浅羽祐樹×米村耕一×金成玟「激動韓国 2024-25」(前半)など
・ポリタスTV(日本のYouTubeメディア)
報道ヨミトキFRIDAY #191 尹錫悦弾劾・フジテレビSP(2025年4月4日配信)では、大統領罷免について、ソテギョ(徐台教)さん、青木理さん、浜田敬子さん、津田大介さんで、対談しています。
ソテギョさんの解説が 解りやすいです。
・Dialogue for People(日本のYouTubeメディア)
戦争、差別、貧困など、様々な社会課題とその解決に向けて、行動を起こすきっかけをつくる発信をしています。
2024年12月11日のRadio Dialogueでは「韓国文学と民主化」と題し、韓国の民主化運動の歴史と ハン・ガンさんの文学作品についての 貴重な対談が配信されています。
MC:安田菜津紀さん、佐藤慧さん
ゲスト:真鍋祐子さん
韓国に関して詳しい専門家
韓国に関して詳しい 専門家やジャーナリストの方々です(X アカウントを紹介します。リンクから飛べます)。
浅羽祐樹さん(政治学者/同志社大学グローバル地域文化学部教授)
専門は韓国政治、比較政治学、国際関係論、日韓関係、司法政治論
韓国 北韓大学院大学校招聘教授、早稲田大学韓国学研究所招聘研究員も歴任
著書に「比較のなかの韓国政治(有斐閣)」「韓国とつながる(編著・有斐閣)」「はじめて向きあう韓国(編著・法律文化社)等
ソ・テギョ(서태교/徐台教)さん(ジャーナリスト/『コリア・フォーカス』編集長/ニュースレター『新・アリランの歌』運営/デモクラシータイムス『徐台教の韓国通信』)ソウル外国人特派員協会正会員。ソウル在住)2016年~2017年のろうそくデモ、パク・クネ元大統領弾劾と大統領選挙も 密着取材している。
米村耕一さん(2010年~2013年、2020年~2023年 毎日新聞社北京特派員。中朝国境地帯から朝鮮半島をウォッチしてきた。2015年~2018年ソウル駐在。ソウル支局長、外信部副部長を経て、2020年中国総局長。2025年現在は、東京在住。)
著書に「北朝鮮・絶対秘密文書-体制を脅かす『悪党』たち(新潮新書)」
真鍋祐子さん(社会学博士。研究分野は 東アジア地域研究。東京大学東洋文化研究所教授)
著書に『増補 光州事件で読む現代韓国』、『自閉症者の魂の軌跡ー東アジアの「余白」を生きる』等。
「親日」とは何か「反日」とは何か
日本では、今でも一部で、「親日」「反日」という概念を、物事を見る「フィルター」として使用されることがありますが、言葉としても非常に誤解を与える表現でもあり、「フィルター」としても適切ではない概念です。
「親日」とは何か、「反日」とは何か、について 考える材料として、下記にまとめています。
ご参考になれば幸いです。




今回、民主主義を守るための「罷免」に至った経緯、憲法裁が 国民を分断させない苦心を見てきて分かるように、韓国で、このことを「親日」「反日」論で語る人は、もちろんいません。
前述したように「右派・左派」「保守・リベラル」でもありません。
韓国では、憲法が生きている。そう、深く感じた4月4日でした。
日本も、「右」対「左」で争う(もちろん、社会を良くする為の 忌憚のない意見交換は大切ですが)ことばかりではなく、今回、韓国の憲法裁が示したように、対立を乗り越えて民主主義社会をつくる、そのための議論をしていきませんか?
政治家も。私たち市民も。メディアも(自戒を込めて)。
韓国の憲法裁は、それを世界に教えてくれました。
「保守」と「リベラル」というカテゴライズは、ときに両者の間に壁を作り、本質的なことを見誤り、分断を促す概念にもなりえます。
人類は 時々このカテゴライズをやめてみてはどうか、対話してみてはどうか、を提案してみたいと思います。
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